Column

コラム

飲食店の多店舗展開における「ドミナント戦略」のメリット・デメリット

経営分析

飲食店が3店舗、5店舗と多店舗展開を進める際、特定の駅周辺や同一沿線に集中して出店する「ドミナント戦略(集中出店)」は、長らく飲食経営のセオリーとされてきました。 食材配送の効率化、スタッフのヘルプの容易さ、地域内での圧倒的なブランド認知向上など、そのメリットは経営者であれば誰もが実感するところでしょう。自転車で全店舗を巡回できる距離感は、経営者にとっても安心感があります。 しかし近年、5店舗の壁を越え、10店舗、20店舗とスケールしていく成長企業の中で、あえてこのドミナントのセオリーを崩し、「飛び地(別エリア・別沿線・他府県など)」への出店を戦略的に選ぶ企業が増え始めています。 なぜ彼らは、効率的なはずのドミナントを捨て、目の届きにくい飛び地を選ぶのか。今回は、多店舗化のフェーズで多くの経営者が直面する「ドミナントの限界」と、次なる生存戦略について紐解いていきます。

ドミナント特有の「3つの罠」

地域に根差して着実に店舗を増やしてきた経営者が、ふと足元の異変に気づく瞬間があります。「店舗数は増えているのに、利益率が落ちてきた」「店長たちが疲弊している」——。これは、ドミナント戦略が一定の規模を超え、メリットがデメリットへと反転し始めたサインかもしれません。
経営者たちが直面するドミナントの罠は、主に3つあります。

一つ目は、「採用のカニバリズム(共食い)」です。
同じ駅の周辺に複数店舗を構えると、同業他社ではなく「自社店舗間」でスタッフの奪い合いが起きる採用のカニバリズムです。エリア内の労働人口は限られているため、近隣で複数店展開すると、募集時の反応が分散するだけでなく、店舗間での条件(時給や教育体制)の僅かな差が不満に繋がり、離職率を高める要因にもなりかねません。

二つ目は、「自社競合による売上の頭打ち」です。
ドミナントエリア内で別ブランドを展開するならまだしも、近い業態を出店し続けると、既存店の常連客が新店に流れるだけの現象が起こります。結果として、企業全体のパイ(総売上)は広がらず、店舗ごとの生産性だけが下がっていく事態に陥ります。

そして三つ目が、「環境変化に対する一蓮托生リスク」です。
大規模な駅前再開発による人の流れの変化、競合大型商業施設のオープン、あるいは予期せぬパンデミック。一つの商圏に依存している状態は、その地域に逆風が吹いた際、企業全体が一気に致命傷を負うリスクを孕んでいるのです。

あえて「飛び地」へ。ポートフォリオ型出店という選択

こうしたリスクを回避し、企業としての地力を高めるために選ばれるのが「飛び地出店」です。

例えば、これまでビジネス街だけで展開してきた企業が、あえて郊外の住宅街ロードサイドに出店する。あるいは、ターミナル駅中心の展開から、あえて隣県のローカル沿線に進出する。このように異なる特性の立地を持つことは、投資の世界で言う「ポートフォリオの分散」と同じ効果をもたらします。
平日の夜が強いエリアと、週末の昼が強いエリアを併せ持つことで、企業全体の収益基盤は格段に安定します。

さらに見逃せない裏のメリットが、「組織の活性化とポストの創出」です。
ドミナント展開では、近隣店舗をまとめる「統括店長」のような役割で事足りますが、飛び地への展開となれば話は別です。新エリアの立ち上げと運営を任せる「エリアマネージャー」という明確な上位ポストが必要になります。
「いつまでも店長止まりかもしれない」と燻っていた優秀な右腕人材に対し、経営者に近い裁量と責任を与えることで、モチベーションを引き上げ、人材流出(独立離職)を防ぐ強力なフックとなるのです。

飛び地出店が迫る「脱・社長の巡回」

しかし、飛び地出店には大きな壁があります。それは「経営者の目が物理的に届かなくなる」ことです。
これまでは社長自らが毎日店舗に顔を出し、料理の味を確かめ、スタッフの顔色を見て回れました。しかし、飛び地ではそれができません。QSC(品質・サービス・清潔さ)の低下や、不正の温床になるのではないかという恐怖感が、多くの経営者をドミナントの箱庭に留まらせています。

飛び地出店を成功させる企業は、この恐怖を「属人的な管理から、仕組みによる管理」へ移行する好機と捉えています。
「今日どうだった?」という感覚的なコミュニケーションから脱却し、日次決算、FL比率(食材費と人件費の割合)、原価のブレなど、全店舗の「数字」をリアルタイムで可視化するバックオフィス基盤の構築が不可避になります。

データという客観的な共通言語を持つことで、経営者と現場(エリアマネージャー)は、離れていても同じ解像度で店舗の健康状態を把握できるようになります。

飛び地への挑戦は、企業を強くする大きな転換点

ドミナント戦略は決して間違った手法ではありません。初期の成長には不可欠です。しかし、そこからもう一段階上のステージ(10店舗、20店舗〜)へ企業をスケールさせるためには、いつか「目の届く範囲」から抜け出さなければなりません。

飛び地への出店は、単なる店舗数の拡大ではありません。「社長の目と足に依存しない組織」を創り上げるための、避けては通れない大きな転換点です。
もし今、自社のドミナント展開に閉塞感を感じているのであれば、それは、自社のシステム基盤を見直し、データ経営へと舵を切るベストなタイミングなのかもしれません。仕組みさえ整えば、御社のブランドが輝く場所は、今の商圏のずっと外側にも広がっているはずです。

× 資料ダウンロード
TOP