飲食店の物件探索時や飲食店の開店後に設備の問題によくぶつかります。 いくら良いお店を考え付いて良いメニューを開発しても、お店の設備の能力が不十分だと良いものが実現できません。 言い換えれば必要な設備や能力を理解しておくことで、良いお店とメニューが実現できるようになる。と言えます。
重飲食と軽飲食
物件を探していると不動産屋さんからの情報の中によく「重飲食不可」とか「軽飲食可」などという文字が載っています。
「軽飲食」から先に解説する方が理解しやすいと思いますので、下ではまず「軽飲食」、次に「重飲食」の順に解説いたします。
軽飲食
煙、油、匂いが無い又はほとんど無いお店のことを指します。
業種、業態としては、カフェ、喫茶店、バー、スナックなどが代表的です。
ということは専門的な厨房が必要のないお店とも言えます。
重飲食
煙、油、匂いのどれかが強いお店のことです。
業種、業態は先ほど軽飲食で挙げたもの以外のほとんど全てと言っていいでしょう。
煙、油、匂いのどれかが強いということは専門的な厨房が必要なお店でもあります。
重飲食物件不可の物件が存在する理由
重飲食不可の物件がある理由は主に二つです。
物件が住宅街やオフィス街の中などで、煙や匂いが多いと周辺からのクレームが多い。又は物件に汚れや匂いが付きやすく次の借り手が見つかりづらくなってしまうのではないか。
という物件オーナーの懸念が理由の一つ。
二つ目は物件自体に重飲食用の設備がない。
設備関連は借りる店舗だけで解決できる問題は少なく、物件オーナーの関与が求められることも多いものです。その関与には物件の工事やそれに伴う金銭も含まれることもあるので、できることなら物件の変更無しに貸し出したいという思いがあるということも理由の一つということができます。
A、B、C工事
設備だけのことだけではありませんが、上記に深く関連する言葉でよくA工事、B工事、C工事という言葉も出てきます。
これらは物件にまつわる工事のことですが、その場所や対象によって3種の区分があります。
それぞれは「費用負担、工事業者への発注」、「工事業者の選定」、「所有権」の組み合わせで理解することができます。
A工事
費用負担 ・・・・ 物件オーナー(貸主)※以降は物件オーナーと記します
業者の選定 ・・・ 物件オーナー
所有権 ・・・・・ 物件オーナー
外装、外壁やエレベーター、共用のトイレ、廊下、消防設備、都市ガスなどの工事に関わる部分です。
費用負担、業者の選定、所有権のすべてが物件オーナーの権限と責任で実施されます。
建物自体の強度や価値に関わる部分と言えますね。
B工事
費用負担 ・・・・ テナント(借主)※以降はテナントと表記します
業者の選定 ・・・ 物件オーナー
所有権 ・・・・・ 物件オーナー
B工事の前提はテナント側の専有部分の工事ということが一点。
もう一点はその工事が建物全体に影響の可能性があるもの。という定義です。
例えば、テナント内の分電盤や空調などの電気関連、給排水、給排気、厨房の防水工事などです。
建物の安全にも関連するということで業者の選定は物件オーナーが実施します。
費用負担はテナント側なので、値下げ交渉などが自由にできず思ったよりも高い金額の請求が来てしまうなどのトラブルが起きやすい工事区分でもあります。
C工事
費用負担 ・・・・ テナント
業者の選定 ・・・ テナント
所有権 ・・・・・ テナント
テナントの専有部分で建物全体に影響のない内容の工事がC工事に該当します。
電源、電話、インターネットなどの配線工事、飾りの柱や壁の設置、什器の設置などが当てはまります。
業者選定もテナント側で実施するので、複数の工事業者から相見積もりをとったり、以前から関係があり気心の知れた工事業者に発注することが可能です。
以上、ABC工事の簡単な解説ですが、本記事で記載している店舗の設備に関するものの多くはB工事の範囲に含まれるということも併せて気に留めておくことが必要でしょう。
給排気 良いお店を実現するために一番気になる設備
特に重飲食の店舗を実現するにあたり気になるのが給排気です。
日常生活ではあまり意識することのない給排気ですが、飲食店においては何のことを指すのでしょう?
排気
一般家庭で言えば換気扇やレンジフードがその代表例ですよね。
飲食店で家庭と同じものではたちまちに煙と匂いが充満することになるので、
重飲食にカテゴライズされる飲食店では高い能力を持った排気設備が必要ということになります。
特に油煙、煙、匂いが多く発生するメニューの場合は、中でも能力の高い排気設備が必要となります。
物件によっては換気扇のように店舗から直接、道路や隣の建物に向かって排気してはダメというものも多く、その場合はいわゆるダクトを通じて屋上まで引っ張って排気しなければならないということもあります。
排気能力が高い機器はその分高価になりますし、屋上までとなるとその長さ分の金額がかかるということにもなります。
ちなみに・・・
焼鳥などの煙を外に出してくれる仕組みは煙であっても「排気」です。
「排煙」と勘違いすることがありますが、排煙は火災に関わる際の規定で排気とは別物です。
給気
給気も無視できません。
排気能力が高くても同時に次の空気が入ってこないことには換気になりません。
飲食店に入ろうと思って開き戸のノブを引いて開けようとしても、思ったよりも重く感じるドアがありますよね。
これは給気よりも排気能力が高く給排気のバランスが良くない状態です。
結果、排気の能力の割に煙などを思ったほど吸ってくれないなどということが起きます。
窮余の策としては排気設備を動かしている間だけドアや窓を開けっぱなしにしておくという手もありますが、雨の日や真夏や真冬には使えない手ですよね。
根本的に対応するには給気システムの導入、又は給気口を増やすか大きくする以外にありません。
給気システムにしても、給気口を増やす、大きくするにしても壁に穴をあけることになるケースが多くありますから、少なくともB工事、ビルによってはA工事になる場合もあり、簡単には物件オーナーが承諾してくれないかもしれません。
いずれにしても後付けは難しいケースが多いので、物件契約前にしっかりと想定しておくことが重要ですね。
欠かせないその他の設備
電気
電気関連で一番気になることが停電せずに運営できるか。という点です。
電気を使用する様々な機器や什器の電気使用量の合計が契約のアンペア数で充足できているかを計算すると判別できます。
お店が大きければ大きいほど使用量も増えることになります。
「電気」と「動力」と呼ばれることもあります。
電力と動力
飲食店では「電力」と「動力」の2種の電気を併用して機器を動かすことも一般的です。
電力 ・・・ 小さな電気で動かすことができる機器で使用します。家庭で使用するものと同じです。
動力 ・・・ 大きな電気で動かす機器で使用します。業務用エアコンやエスプレッソマシーン、業務用冷蔵庫や大型ミキサーなど厨房機器の多くが含まれます。コンセントのプラグの形状が違っていて、差し込みのプラグが3つや4つになっているものをよく見かけます。
電力も動力も自分である程度計算できますが、プロに計算してもらうとかなり精緻な計算で良いアドバイスをもらえますので、デザイナーなど内装工事を発注している方を経由して聞くと教えてもらえます。大抵の場合無料でやってくれますので、聞かなきゃ損です。
ガス
電気容量は比較的後からでも解消がしやすい部類に入りますが、特に都市ガスはそうもいきません。
増設工事をするとなると申請から工事終了まで1ヶ月以上かかってしまうこともあります。
ガスストーブ(コンロ)、給湯機、食洗機、茹で麺機など、意外とガスを使用している機器はありますし、重要な機材ばかりです。
ガスが供給できる量はガス管の口径で決まってしまいますので、都市ガスでガスを多く使用する業態の場合、物件の契約前にガス管の口径を確認しておくことが重要です。
通常の重飲食の場合10号、中華などの大火力が必要な業態は16号など大きな号数の口径が必要になります。
厨房の防水床
厨房には防水加工が施された床とそうでないドライキッチンと呼ばれるものがあります。
階下に漏水しないような加工を防水と呼んでいます。
油煙や床に落ちたソースなどを水で洗い流すなど衛生的に保つために重飲食では実施すべき工事です。
どうしても後からの施工では時間とお金がより多くかかってしまうので、できれば店舗の内装工事のタイミングと合わせて実施するのが良いです。
B工事に含まれます。
防水加工された物件でも防水効果の耐用年数を超えている場合もありますので、その場合はもう一度やり直しになります。
まとめ
立地 広さ 家賃 そして設備
物件探しは立地と広さと家賃相場の掛け合わせを優先して契約家賃が決まっていきます。
もちろん上記は大事ですが、特に設備周りは大きな金額がかかることもあります。
どんな飲食店でどんなメニューにするか、
「そのメニューにはどのような設備が必要か」
これも基準の一つに入れて物件探しをすることが、頭の中にある良いお店の具現化にはとても大事なことなのです。