様々な経済指標を眺めていると、外食も含めて国内の景気動向は踊り場のような時期に入っているように感じています。 今を語るにはどうしてもコロナウイルス影響下からの回復の道程の話になってしまいますが、 朝の時間帯からランチ時、加えて夕方の早い時間までに集客できる、 うどん、そば、ラーメン、ファミレス、ファストフード、カフェ、定食などが他の業種業態に先んじて売り上げが回復してきました。 同時に外食市場の回復のけん引という役割を果たしていたとも考えています。 これらの業種、業態をこのコラムでは昼業態と呼ぶことにいたしますが、 景気の踊り場を迎えて、昼業態でも売り上げの伸び率の踊り場化(鈍化)が見えてきています。 こういう市場トレンドに入ると、昼業態の経営者は夜も集客できる業態への転換を考えることがよくあります。 「営業時間を夜遅くにも延ばすだけ」や「チョイ飲み」で夜に進出する企業もあれば、しっかりと「夜にも根を下ろすつもり」の施策を準備している企業のどちらもあるようです。

昼と同じ形態で夜も伸ばせる業態はある?
効率から考えるとお昼のままの営業形態で夜にも集客が増加するというのが理想的ですが、そのような業態は非常に珍しく、昼と夜ではオペレーションもノウハウも、利益構造も変えないと夜の集客が伸びないということの方が多いと言えます。
言い換えれば、昼の形態のまま営業時間を延ばしても集客できない可能性が高いということなのです。
顧客のイメージを分ける
夜時間帯のお客様を想像するとき、既存店ではお昼の常連さんをモデルとした顧客イメージを想定することが多くなってしまうのですが、
行動範囲や昼夜の顧客ニーズの差でお昼のお客様と夜のお客様は違う方(人)であることがほとんどです。
私自身の何気ない行動を振り返っても、お昼に行く店と夜に行く店は知らず知らずのうちに分けています。
つまりお昼の常連さんは夜にはそのお店のことをあまり思い出してくれないということなんです。
たとえ同じ形態で営業時間を延ばすだけであっても、昼と夜の顧客は違うニーズを持っているということを意識しておくことは非常に重要です。
お昼のままで夜も伸ばせる業態
先述の通り、何も変えずに営業時間だけを延ばせば、売上も伸びるというお店は少ないと言えます。
例外はありますが、それを達成できるのは大きく二つの条件が揃っている場合だと考えます。
1、(わざわざ行く)目的立地ではなく、夜も人が回遊する動線上にあること
2、お酒の介在無しで夜でも外出先で食べたいものがメインのメニューであること
1については判断しやすい部分です。
夕方以降も昼間と同じくらい店前通行量があると判断できればクリアと考えられるでしょう。
2については様々な主観もあることですので判断しづらい部分ですが、
お昼時に較べると夜は食事の時間は少し長くかかっても、しっかりとしたもの(コクのあるものなど、自分の中で少し特別感のあるもの)を食べたいという方が多くいらっしゃいます。
例外を多く含みつつ端的に言うと、夜に来店されるお客様は、お昼時には別の店やテイクアウトなどでもっと早く提供されるもの、もう少しサッパリしたもの中心に召し上がっている方々ということになります。
ニーズが変わるので同じメニューを提供していても、お昼と夜では顧客が変わるのは道理ということなのですね。
2においては家族の有無や終業時間などの夜らしい変数の多さによって、個々のニーズも変わってきますが、
実績としてはラーメン店やうなぎ店が昼夜の形態を変えず営業時間のみを延ばして成功できる代表と言えるようです。
中には、街中から遠く離れた郊外で、薪で焼くピザが大変な人気のお店!とか、
分かりづらいビルの空中階で提供される低温調理のトンカツの定食にたくさんの人が並んでいる。
なんていうこともありますが、あくまでレアケースの範疇です。
ほとんどのお店は顧客ニーズを分析して、お昼と夜のメニューの差別化やアルコールの提供、それに応じたオペレーションの変更などをしなければ売上拡大のための夜営業の進出が難しいということです。
アルコールの提供が一つの分岐点
夜は飲めるお店として打ち出すのが、顧客に夜業態としても選んでもらえる一つの正攻法であることは間違いありません。
昼でもビールや少しのアルコールのメニューを提供しているお店は多くあるでしょう。
これは顧客の気まぐれによって消費されたりされなかったりというもので、
昼業態においてはこれら気まぐれ消費の平均の出数によって、生ビールのディスペンサーを導入するのか、あまり平均の出数が多くない場合にはロスの少ない瓶での提供にするか。という判断をすればよい訳ですが、夜に本格的にアルコール提供するとなると、考慮すべき点が出てきます。
料理よりも飲み物の方が総じて原価率が低いことはよく知られていますが、
お酒を置いてさえおけば欲しい人が注文してくれるだろうという、
きまぐれ期待の延長ではなかなか飲んでくれませんし、目的の夜の集客もかないません。
お酒のメニューの最低限のラインナップとは
まずは、お店にとって最低限以上のラインナップ(バリエーション)が必要です。
顧客にその気になっていただくには、どんなお店でも12~15種類程度はオンメニューするべきでしょう。
例えば和をベースにした店舗であれば、生ビール、ノンアルビール、酎ハイ3~4種(レモン、グレープフルーツ、プレーン、ウーロンなど)、ハイボール(サイズかベース別に)2~3種程度、本格焼酎3種程度、日本酒(純米中心に)2~3種程度、(顧客層によって必要であれば)グラスワイン、ノンアルコール(ジュースやお茶など)
といったところでしょうか。
このくらいの数をきちんとオンメニューすれば、ボリュームによりそれなりのメニューの見え方になり、飲める店としての最初の体裁が整います。
「チョイ飲み」にも「しっかり」にもしばらくは対応できる状態であるということです。
もちろんこちらはあくまで最低限ということですので、料理と同様に真剣にこだわりを追求しつつ、アイテム数を増やすことは検討しても良いと思います。
その後は出数やヒアリングにより顧客のニーズを探りながら、カテゴリー毎の増減を実施していくということで、少しずつふさわしいメニューに仕上がっていきます。
ヒアリングベースではノンアルコールの種類を増やしてほしいという言葉が聞こえてくることも数件出てくると思います。
増えることは悪いことではないのですが、ノンアルコールはどうしても開封後の使用期限が短いので、ノンアルコールは厳選しながら増やしていってください。
本気度の表現
加えて、料理のメニューと同じデザイナーにデザインしてもらうなど、見た目の体裁(グレード)を合わせることも重要です。
たまに見かけるケースですが、しっかりとデザインされた料理のメニューブックと手書きのペラペラの飲み物のメニューが同じメニュー立てに刺さっていると、飲み物に対しての本気度が伝わりませんよね。
お店にとってはすぐに止めるかもしれないチャレンジでも、顧客には本気でないように見えてしまうという例です。
やはり、そのようなお店ではあまり出数が伸びない傾向があります。
また、メニューはお店の中で表現するものですが、店の外にも「飲める店ですよ」と表現することも併せて重要です。
店名を変えたり、それに伴ってファサードや看板を大きく変更したりしない限りは、顧客にとっては毎日見るいつもの景色なので、夜は飲める店だということが伝わりませんよね。
SNSで周知をしよう(してもらおう)にも、お店にとっても顧客にとってもアピールのポイントが少なく、広がりを持ちづらいということにもなります。
店外の黒板メニューや店前のバナーでも導入当初はおつまみメニューと合わせてしっかりと酒類提供のアピールをすることが重要です。
のれんのある店ではのれんに「大衆酒場」などの文言を入れて、夜だけかけ替えるなどの方法も有効です。
集客により活気が出てくれば、それが店外に向けてもアピールになり、黒板メニューや店前のバナーも料理中心に戻していくこともできるようになります。
忘れてはいけない設備や備品の切り口
たとえメニューに載っている数が15種類でも出数が増えていけば、売上や利益に与えるインパクトは大きくなっていきます。
インパクトが大きくなるほど、グラスの数は増え、在庫も増えていくことは避けられません。料理と同様に一定以上のスピードでの提供が求められますので、その体制を整えていくのは重要なポイントです。
直接店舗を訪れたり、厨房図面を見たりすると、(ある意味では)不当に飲み物を作る場所が狭く制限されている店を見かけます。
料理(Food):飲み物(Drink)の売上における比率をFD比と呼びますが、FD比が50:50の店舗では、厨房に占める面積の割合も50:50でも不思議ではないわけです。
先述の通りドリンクの方が原価率が低い場合も多い訳ですから、利益ベースで考えると更に広くても良い。という考え方さえ可能です。
とはいえ仕込みも含め調理器具も収納場所も大きなスペースが必要な料理よりも大きなドリンクスペースというのは現実的な割合ではないにしても、厨房内の30%程度のスペースを割くことは考慮すべきことだと考えられます。
そのスペースには生ビールのディスペンサーの近くにすぐに交換可能な生ビールの樽、
冷やされながら十分にストックされているグラス、
酎ハイやハイボールを複数同時提供するための十分な作業スペース。
繰り返し5~6個同時に作成するためにはW700×D600くらいは必要でしょう。
同作業スペースでは材料がこぼれてしまった時に他のグラスの底に影響が及ばないようなパンチング付にしておく。
グラスの数は客席数にもよりますが、食洗機を使用して洗う場合には熱が冷めるまで置いておくことも考慮して、席数の2.5倍程度の数は用意しておく。
作成時にスピーディーに手に取れるようにボトルを機能的に収納しておくためのボトルラック。
など。細かく挙げればキリは無いですが、厨房の片隅の1割にも満たない上に分散したスペースでグチャグチャになりながら作成していると、せっかくの夜集客が無駄になりかねません。
夜の集客に増加の兆しが見えてからでも遅くはありませんが、設備や備品に関する必要性を認識しておくことも、昼夜兼用の業態には重要な要素だと考えています。
市場では
2023年、2024年にはお昼の業態を中心に大手ではM&Aが実施されています。
2024年の後半からそれらの一部が昼夜兼用の業態を目論み動き始めています。
M&Aの成否はまだ見えていませんが、夜への進出はあまり上手く展開されていないのが現状です。
更に小さな中小規模企業でもお昼から昼夜兼用への進出の増加の兆しが見てとれます。
彼らにとっては夜に獲得する売り上げは純増なので、踊り場市場では当然の経営判断と考えられるでしょう。
失敗例を鑑みると本気度を表現しながらの転換でないと、集客につながらず反対に経費が多くかさんでしまうということにもなりかねません。
今のような平時には一度営業時間を延ばしてしまうとなかなかすぐには元には戻せません。
迎え撃つ夜業態はチョイ飲みで進出する彼らに対抗すべく魅力度を高めておく必要があるということにもなってきそうです。