日本では、毎年地域ごとに最低賃金が改定されます。この改定は10月を基準日として実施され、厚生労働省が定めた基準に従って各都道府県の最低賃金審議会が決定します。労働者の生活を守るために必要な措置である一方、企業、特に中小企業や飲食店などにとっては賃金の上昇が大きな負担となることがあります。飲食店にとってもその負担は大きなものです。飲食店経営者は迅速かつ効果的に対策を講じる必要があります。そこで注目したいのが「賃上げ支援助成パッケージ」および「業務改善助成金」です。今回のコラムでは、この助成金を活用した生産性向上と労働コスト増加を賄う方法についてご紹介します。

賃上げ支援助成パッケージについて
賃上げ支援助成パッケージは、政府が企業の賃金引き上げを支援するために設けた一連の助成制度です。特に中小企業や非正規労働者が多い企業を対象に、賃上げに伴う負担を軽減し、企業の競争力強化や労働者の生活の質向上を目指しています。
厚生労働省が発表した「賃上げ支援助成パッケージ」では、企業の賃金引上げをサポートするために、以下の3つの主要な支援策が含まれています。
・生産性向上(設備・人への投資等)への支援
・正規・非正規の格差是正への支援
・より高い処遇への労働移動等への支援
このパッケージで取り上げられている助成金は、次のとおりです。
・業務改善助成金
・キャリアアップ助成金(正社員化コース・賃金規定等改定コース)
・働き方改革推進支援助成金
・人材開発支援助成金
・人材確保等支援助成金(雇用管理制度・雇用環境整備助成コース)
・特定求職者雇用開発助成金(成長分野等人材確保・育成コース)
・早期再就職支援等助成金(雇入れ支援コース、中途採用拡大コース)
・産業雇用安定助成金(スキルアップ支援コース)
中でも中小企業や飲食店などに広く活用できるのが「業務改善助成金」です。この助成金は生産性向上を目的とし、設備投資や人材育成にかかる経費を助成するものであり、賃上げ支援助成パッケージの一環として重要な役割を果たしています。
業務改善助成金について
業務改善助成金は、厚生労働省が運用する助成制度です。飲食店が事業場内最低賃金を30円以上引き上げ、かつ生産性向上に資する設備投資などを実施した場合、その設備投資費用の一部を助成します。最大600万円の支給がなされるため、賃金引き上げに伴う負担軽減に大いに役立ちます。
業務改善助成金を活用するための支給要件
・中小企業または小規模事業者であること
小売業・飲食店の場合、資本金5,000万円以下かつ従業員50人以下であることが条件
・事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内であること
毎年改定される地域別最低賃金との差が50円以内であることが条件
・解雇や賃金引下げなどの不交付事由がないこと
過去に不祥事や違反が無いことが求められる
助成対象経費
業務改善助成金の助成対象経費は、生産性向上や労働能率の増進に資する設備投資に関するものです。飲食店にとって具体的に以下が挙げられます。
・機械装置等の購入費
顧客対応を効率化するPOSシステム、新たな調理機器、最新の厨房機器など
・ITシステム導入費
顧客管理システム、在庫管理システム、予約管理ソフト、一括会計システムなど
・経営コンサルティング費
専門家による業務フロー改善や経営戦略のコンサルティング
・人材育成・教育訓練費
スタッフのスキルアップを目的とした研修・セミナーの費用
・委託費
外部業者に業務の一部を委託するための費用
これらにより、飲食店は業務効率アップと生産性向上を実現し、賃金引き上げに対応することができます。
助成額と助成率の改正
・令和7年度(2025年)の改正により、助成率は最大で80%に引き上げられます。
助成上限額(令和6年度と変更なし)
コース区分 |
事業場内最低賃金の 引き上げ額 |
引き上げる従業員数 |
助成上限額 (30人以上) |
助成上限額 (30人未満) |
30円コース |
30円以上 |
1人 |
30万円 |
60万円 |
2~3人 |
50万円 |
90万円 |
||
4~6人 |
70万円 |
100万円 |
||
7人以上 |
100万円 |
120万円 |
||
10人以上※ |
120万円 |
130万円 |
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45円コース |
45円以上 |
1人 |
45万円 |
80万円 |
2~3人 |
70万円 |
110万円 |
||
4~6人 |
100万円 |
140万円 |
||
7人以上 |
150万円 |
160万円 |
||
10人以上※ |
180万円 |
180万円 |
||
60円コース |
60円以上 |
1人 |
60万円 |
110万円 |
2~3人 |
90万円 |
160万円 |
||
4~6人 |
150万円 |
190万円 |
||
7人以上 |
230万円 |
230万円 |
||
10人以上※ |
300万円 |
300万円 |
||
90円コース |
90円以上 |
1人 |
90万円 |
170万円 |
2~3人 |
150万円 |
240万円 |
||
4~6人 |
270万円 |
290万円 |
||
7人以上 |
450万円 |
450万円 |
||
10人以上※ |
600万円 |
600万円 |
※ 一定の要件を満たした場合に適用されます。
・
・
助成率(※令和7年度から)
事業場内最低賃金 |
助成率 |
1,000円未満 |
5分の4(80%) |
1,000円以上 |
4分の3(75%) |
・
・
具体的な活用事例
(1)ITシステム導入
(事例1)顧客管理システム
・飲食店が顧客管理システムを導入し、顧客情報の一元管理を実現。これにより、顧客対応のスピードが向上し、スタッフの業務負荷が軽減された。
(事例2)在庫管理システム
・飲食店が在庫管理システムを導入し、リアルタイムの在庫監視が可能に。無駄な在庫を削減し、効率的な発注計画が立てられるようになった。
(2)コンサルティングの利用
(事例3)業務フロー改善コンサルティング
・飲食店が業務フローを専門家に見直してもらい、生産性が向上。料理提供時間の短縮やスタッフの業務効率がアップした。
(事例4)経営コンサルティング
・飲食店がコンサルティングを受け、経営戦略の見直しを行った結果、労働力コストの削減と業績の改善に成功した。
(3)人材育成と教育訓練
(事例5)スタッフのスキルアップ研修
・飲食店がスキルアップ研修を実施し、スタッフの能力を向上。業務効率が劇的に向上し、スタッフのモチベーションが向上した。
申請フロー
(1)書類の作成・提出
・交付申請書と事業実施計画書を作成し、事業所管轄の労働局へ提出。具体的な生産性向上計画や賃金引上げ計画を添付します。
(2)生産性向上計画の実施・賃金引上げ
・交付決定後に計画内容に従って生産性向上の取り組みを実施。賃金引き上げについては交付申請書の提出後から事業完了期日までに実施します。
(3)報告書の提出
・実施した取り組みの経費支払完了後、事業実績報告書を労働局に提出。取り組み結果や支払経費の詳細を記載します。
(4)助成金の受給
・報告書内容を労働局が審査し、適切と認められれば助成金額の確定・支給決定が通知されます。指定口座に助成金が振り込まれます。
(5)状況報告
・交付確定後も賃金の引き下げや解雇が行われていないことを状況報告します。提出期限は賃金引き上げ後から6ヶ月経過する日となります。
ポイント
(1)タイミングが重要
・毎年10月に地域別最低賃金が改定されますので、そのタイミングに合わせて申請を行いましょう。
・地域別最低賃金の発効に対応して事業場内最低賃金を引き上げる場合、発効日の前日までに引き上げる必要があります。
(2)専門家のサポート
・助成金申請サポートサービスを利用することで、必要書類の作成や計画立案について専門家からアドバイスを受けることができます。
(3)生産性向上を具体化する設備投資
・ITシステムや機械装置の導入など、具体的な設備投資を計画に含めましょう。
今から準備を!
最低賃金引き上げは避けられない現実です。業務改善助成金を早めに活用することで、労働コストの負担軽減と生産性向上を同時に達成できます。最低賃金引き上げに対応するために、今から計画的に取り組みを進めましょう。余裕を持って準備することが成功の鍵です。
業務改善助成金についての詳細や申請方法については、専門家や助成金申請サポートサービスを利用することをおすすめします。適切なアドバイスを受けることで、より確実な対策を講じることができるでしょう。この機会を最大限に生かして、飲食店の成長とスタッフの満足度向上を実現してください。
賃上げ支援助成パッケージ(厚生労働省サイト)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/package_00007.html
業務改善助成金サイト(厚生労働省サイト)