飲食店経営において、サステナビリティの追求は経営効率化と環境負荷軽減を両立するうえで重要な課題です。食材の仕入れや物流方法の選択は、中核的なポイントとなり、特に一定の地域商圏内で多店舗展開している企業にとっては、その影響が大きいといえます。物流方法としては、大きく2つの選択肢が挙げられます。 ①食品卸し業者(問屋)による一括物流 ②3PL事業者に物流のみを委託する方法 本コラムでは、これらの選択肢をサステナビリティの観点から評価し、そのメリットやデメリットを整理します。そして、具体的な事例や補助金の活用について考察します。

食品卸し業者による一括物流をサステナビリティの視点で考える
サステナビリティへの寄与
- 効率的な配送とスケールメリットによるCO2削減
問屋が複数店舗分の商品をまとめて配送することで、配送回数を減らし、配送車の走行距離を最小限に抑えられます。これにより、燃料使用量や排出ガスの削減が期待できます。
- 食品廃棄リスクの軽減
安定供給と長期契約により、急な欠品や過剰発注による食品廃棄リスクを軽減します。
メリット
- サプライチェーンの簡素化
問屋が一括で手配を行うため、煩雑な業務が削減され、経営効率が向上します。その結果、リソースを顧客対応やサステナビリティへの取り組みなど、他の業務に集中させることが可能になります。 - 環境コストの削減
スケールメリットを活用した効率の高い配送により、燃料投入量や排出ガスなど物流における環境負荷を抑えることができます。 - 地域ネットワークの活用
地域特性を活かした地元農家や生産者との連携により、地産地消を促進し、地元農家や生産者との連携を深めることが可能となります。これにより、地域経済への貢献が期待されます。
デメリット
- 商品の自由度制限
問屋が取り扱う商品のラインナップに制約がある場合、サステナブルな食材(例えば有機食材や地域の特産品)を選べない場合があります。 - 過剰在庫リスク
効率化のため日々の配送が困難な場合、店舗にとって不必要な在庫が発生し、廃棄量が増加するリスクがあります。 - 依存による二次リスク
問屋の物流ネットワークや契約条件が環境基準に対応していない場合、飲食店のサステナビリティ目標を崩す可能性があります。
3PL事業者に物流のみを委託する方法をサステナビリティの視点で考える
3PL事業者とは
3PL事業者とは、「Third Party Logistics(サードパーティ・ロジスティクス)」の略であり、委託を受けた第三者(サードパーティー)企業が物流業務を担う業態を指します。
企業が自社内で行っている物流業務(輸送、保管、ピッキング、配送など)を、外部の専門業者に委託する形態を3PLと言い、この仕組みを担うのが3PL事業者です。
物流ノウハウを持つ専門の3PL事業者に、全ての物流業務を任せることができます。
また、実際の物流業務だけでなく、効率的な物流システム・体制の構築や運営を委託することができる点も3PLの特徴です。
サステナビリティへの寄与
- 自由な調達による地産地消の実現
飲食店が仕入先を自由に選択できるため、環境負荷の低い地元食材や有機食材を積極的に調達することが可能になります。これにより、地産地消が促進され、地域経済への貢献も期待できます。 - 最新技術による効率性の向上
3PL事業者は物流の専門技術を利用し、配送ルートの最適化や燃料効率の良い計画を実現します。これにより輸送効率が最大化され、環境負荷を抑えることができます。 - リアルタイム在庫管理による廃棄削減
高度な情報管理技術(例えば倉庫管理システム:WMS)を活用することで、在庫をリアルタイムで監視し、無駄を減らせます。その結果、食材廃棄が削減され、経済的メリットも生まれます。
メリット
- 地産地消やサステナブルな食材調達への対応柔軟性
飲食店が独自の仕入先を選択できるため、地域特性やサステナビリティの理念に沿った調達を反映しやすくなります。 - 物流技術による環境負荷削減
3PL事業者が提供する専門技術や最新システム(例えば配送計画の最適化)を活用することで、物流全体の燃料消費や排出ガスを削減できます。 - 在庫管理の効率化と食材廃棄削減
リアルタイムの情報を活かした在庫管理により、過剰在庫や欠品を防ぐことが可能です。これにより、フードロス削減やコスト削減が実現されます。
デメリット
- コスト増加の可能性
3PL物流を導入することで仕入れ食材の効率化が進み単価が下がる可能性はあるものの、最新システムの導入や運用には初期費用や契約コストが発生します。そのため、小規模店舗にとっては財政的負担となる可能性があります。 - 連携調整の煩雑化
複数の仕入先と物流事業者の情報を管理する必要があり、飲食店側で調整業務が増える可能性があります。この結果、業務全体が非効率に陥るリスクがあります。 - 物流事業者への依存リスク
3PL事業者の物流プロセスが環境基準を十分に遵守していない場合、飲食店のサステナビリティ目標と矛盾する事態が発生する可能性があります。事業者への依存度が高くなることで、柔軟性が失われる点も課題です。
【問屋一括物流と3PL物流のサステナビリティ比較】
項目 |
問屋一括物流 |
3PL物流のみ委託 |
地産地消の対応 |
問屋のネットワーク依存(地産地消は限定的) |
自由に地元食材を調達可能 |
配送効率 |
スケールメリット活用で効率的 |
専門技術によるルート最適化で効率的 |
食材廃棄リスク |
大量発注による廃棄リスクあり |
リアルタイム管理により廃棄リスク削減 |
環境負荷削減 |
スケール効率で削減 |
技術による排出ガス削減 |
柔軟性 |
取り扱う商品に制限あり |
自由度が高く、サステナブル調達がしやすい |
導入コスト |
コスト減少を期待 |
初期費用や契約料増加の可能性 |
事業規模に応じた物流方法の選択
飲食店の規模が小さい場合
- 問屋一括物流の導入がメリット
小規模な飲食店にとって、問屋による一括物流は業務負担を軽減し、効率的な配送が確保できるため、特に有効です。 - 地産地消やサステナブル調達への確認が重要
サステナビリティを実現するには、取引する問屋が地産地消の取り組みを行っているか、有機食材などサステナブルな調達に対応しているかを確認することがポイントです。
飲食店の規模が大きい場合
- 3PL物流の導入が選択肢に
大規模な飲食店では、物流業務を3PL事業者に委託することで、物流品質の向上や効率的な配送の実現が可能になります。リアルタイム管理でのサステナビリティ効果高度な物流システムを活用することで、在庫管理が最適化され、食品廃棄を削減できるほか、環境負荷の軽減にも寄与します。
最高レベルのサステナビリティを目指す場合
- 柔軟な仕入れ方法と3PL物流技術の組み合わせ
飲食店が独自の仕入れ先を選択し、3PL事業者の高品質な物流技術を併用することで、地産地消の推進や食品廃棄削減を実現できます。 - 包括的な環境配慮の推進
独自の調達と効率的な物流を組み合わせることで、環境負荷を最小限に抑えるサステナビリティの目標を達成できます。大規模チェーンのみならず、持続可能な経営を目指す企業にもおすすめの方法です。
有名温泉地・観光地における飲食店の一括物流事例と補助金の活用
持続可能な飲食店経営を実現するには、環境や地域社会に配慮した統合的なアプローチが求められます。しかし、多くの個別店舗で単独対応するのは課題が多く、物流効率化やコスト削減が必要不可欠です。
特に温泉地や観光地では、複数の飲食店が観光客に食事を提供し、物流課題が顕著です。地域内で一括物流を導入することで、物流効率の向上、地域経済活性化、環境負荷軽減が期待されます。さらに補助金や助成制度の活用も鍵となります。
【具体的事例】
(事例1)箱根温泉街での飲食店一括物流モデル
(背景)
箱根温泉は日本屈指の観光地であり、年間を通じて多くの観光客を迎えています。しかし個別の仕入れに
よる物流効率の低下、交通渋滞、環境負荷の増大が問題となっていました。
(取り組み内容)
・地域内の飲食店が連携し、共通の物流プラットフォームを構築。
・専用物流センターを設立し、一括配送モデルを導入。
・地元産の農産物や特産品を積極的に利用することで、地産地消を促進。
(成果)
・配送効率の向上とフードロスの削減。
・配送車両台数減少による交通渋滞解消とCO2排出量削減。
・地産地消による地域経済の活性化。
(補助金活用)
・観光庁の「観光地環境整備補助金」。
・地元自治体の「地域活性化助成金」を活用し、初期費用を軽減。
(事例2)草津温泉における飲食店共同配送プロジェクト
(背景)
草津温泉では複数の飲食店が観光客に食材を提供しており、それぞれが個別に仕入れていたため物流コ
ストが高くなっていました。
配送車両の頻繁な往来による観光地内の交通渋滞も問題化していました。
(取り組み内容)
・飲食店組合を中心に、共同配送システムを構築。
・地元の小規模生産者と連携し、食材を集約してから一括配送を行う形態を採用。
・配送ルートを集約化し、交通渋滞とコストの双方を削減。
(成果)
・各店舗の仕入れコストが10~15%削減。
・フードロス削減と環境負荷軽減を実現。
・地元特産品の利用率が増加し、地域ブランド向上。
(補助金活用)
・群馬県の「地域振興型物流モデル創設助成金」を活用。
・環境省の「低炭素型地域物流促進事業」の補助金を取得し、配送費用の一部を負担。
(事例3)別府温泉(大分県)での一括物流システム導入
(背景)
別府温泉は観光客数が多い一方で、複数の飲食店が個別に食材を調達しており、配送効率が課題となっ
ていました。
地産地消が進んでいないことも地域経済にとっての問題として挙がっていました。
(取り組み内容)
・別府市内の飲食店と宿泊施設による合同プロジェクトで、一括物流センター設立。
・ローカル食材を確保するため地元生産者との連携体制を構築。
・配送ルートを最適化し、観光地内の物流効率を向上。
(成果)
・配車台数が削減され、観光地での交通混雑を緩和。
・地産地消が進み、観光客向けメニューの地元色が強化。
・経営コストの削減と環境負荷軽減に成功。
(補助金活用)
・観光庁の「観光地環境整備事業補助金」を活用。
・大分県の「地域活性化推進助成金」によりシステム導入費用を補助。
補助金活用のポイント
活用できる補助金一覧
- 観光地環境整備事業補助金(観光庁)
観光地施設や物流効率化を目的とした補助金で、物流改善や地産地消型モデルの導入を支援。 - 低炭素型地域物流促進補助金(環境省)
環境負荷軽減を目的とした補助金で、燃費効率の良い車両や物流ITシステム導入を支援。 - 地域振興型物流助成金(地方自治体独自)
地元特産品活用や地域ブランド構築を支援。観光地や温泉地の物流効率化を促進。
一括物流と補助金活用の効果
経済的効果
・各店舗の物流コスト削減。
・地元特産品の消費拡大により地域経済を活性化。
環境的効果
・配送車両台数削減による排出ガスの抑制。
・サステナブルな観光地運営モデル実現。
社会的効果
・地産地消による地域経済の活性化。
・観光客満足度向上と観光ブランドの価値向上。
まとめ
飲食店経営における物流選択は、コスト削減、環境負荷軽減、地域経済活性化を実現するカギとなります。補助金制度を利用することで財政負担を軽減し、効率的で持続可能な物流モデルを構築することが可能です。
観光地や温泉地の特性を生かした一括物流施策は、地域循環型経済や地産地消の推進に寄与します。飲食店経営者にとっては、継続的な価値向上と地域との共存のため、環境配慮型の物流戦略を早期導入することが重要となるでしょう。
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