外食市場全般の傾向として、2月から5月半ばまでの売り上げは比較的堅調な企業が多かったようです。 ここで表現している「堅調」は既存店売り上げ高において、前年同月比を超えた企業が多かったという基準を元にしています。 公表されている企業のみでの判断ということにはなりますが、70~80%程度の企業が前年を上回っているようです。 といっても増加率は101%~105%台というところが多く、二桁増というのはファストフードの中でも超大手の一部の企業に留まるので、全体としてはまさに「堅調」「踊り場」という言葉がピッタリの現状ということになりそうです。

売上増=客数増ではなくなった
売上分析の代表的な手法として
売上=客数×客単価
を用いることが多いですよね。
数年前までは「売上増」はほとんどの場合、「客数増」とイコールで結ぶことができました。
日々の「客単価」の揺れはあるものの長期で見ると大きく変わらないため、売り上げ増は客数増と結ぶことができたということになります。
ところが昨年の秋あたりからその構図は少しずつ変化してきています。
売上増の原因が客数増だとは限らなくなってきているということなんです。
客数は変化していないが客単価が上がったため、売上増につながっているというケースが増えているということです。
客単価が上がった要因にはメニューミックスやサービス力向上によるものもあると思いますが、やはり多くはメニュー内の単品それぞれの値上げによる客単価増というケースが多いようです。
これはもちろん原材料費高騰への対策だということは消費者にも広く知られていますし、それについてネガティブな論調も皆無と言ってよいと思います。
このような消費者の受け入れを背景に、値上げしても客数が減ることなく売上増が達成できていると考えることができます。
売上増のグラデーションの内訳
中期的なレンジで見ると、「売上増という傾向」は変わらないのですが、その内訳が変わってきていることが見えます。
1年前には客数が上がって売上増になった企業が多くありました。
当時はコロナ明けの揺り戻しも含めた景気の中にあったと考えられますが、
そこからこの3月に向かって客数増を達成する企業がグラデーションのように減ってきています。
対してこの3月以降には客単価増により売り上げ拡大に到達している企業が反対のグラデーションとして増えてきているということなんです。
1年前にもメニューの値上げを実施した企業は多くありましたが、同時に客数も上がって売上が2桁増などの企業もいくつかありました。
潮目と考えられる現象
外食以外にもこの数ヶ月で市場の動きや考え方に影響があるような「潮目」のような現象が増えているように感じています。
ここで言う潮目は景気の潮目というよりも、次の行動変容への潮目というような意味合いです。
国の税収が6年連続で過去最高という話がありますが、これも一因を紐解けばモノの単価が上がれば、それにかかる消費税も必然的に増えますので、物価高がまねいた過去最高だとも考えられます。
あくまで過去最高の一因の分析です。
それでも今年になってようやく食品にかかる消費税を軽減するべきではないかとの声が本格的に上がりました。
また、アメリカを中心とした外国との金利差から数年に渡る長期の円安が起きていることを遠因として、この4月、5月には金融機関の企業や個人に対する融資における金利も大きく上がってきています。
円安も長く続いていますが、融資に関する金利が大きく上がったのは、これも考えてみれば直近です。
これらはやはり消費者の行動変容のきっかけとなりそうです。
新たなフェーズとは
売上増でも客数が増えていないことの消費者の心理的な側面を考えてみると、
値上げに対するネガティブな感情は無いけれども、お財布に入っているお金は限られているので、飲食機会と飲食する店舗を真剣に検討している。
そんなフェーズに入ってきているのではないかと感じられます。
そして、それらは新たなフェーズの予兆です。
客数増というよりも客数維持を考えながら、売上増を狙う。
というフェーズだと考えられます。
これはあまり体験したことのないフェーズであり、それに対すべき戦略の考案と言えるでしょう。
3軒行ってた人が2軒に、月に3回外食していた人が2回に、それでも外食に使ったトータルの金額は変わらないか少し増える。
飲食店はそんなターゲティングによるコンセプト設計やメニューや価格の設計、立地の設定や内外装の設え更にサービスの戦略。
大きな市場の変化や行動変容に向けて、新たに組み替えるべきことが増えていく端緒と見ることができます。