ここ数年、世界的に和食の人気が高まっていることは既知のとおりですが、寿司や日本料理に限らず様々な日本発の料理においても外国人が作る「なんちゃって和食」ではなく「日本で食べられるような本物の味を食べたい」というニーズも高まっているようです。 それを背景に日本の外食企業による海外進出も増えてきています。海外進出には各国それぞれの客層の分析や商慣習の違いなど考慮しなければならない点も多くあります。その一つに人材募集において多くのスタッフに選ばれる店とそうでない店があるようです。

アメリカにおける飲食店のチップの相場
アメリカに旅行に行ってもそうですが、どのようにチップを渡せば良いか困りますよね。
特に、飲食店の場合10年程前には飲食代金の10%~15%というところでしたが、現在では15%~20%。
観光が主要産業などの都市では20%を超えることも当たり前になってきているそうです。
チップがどういうものかを日本語で調べてみると、全てと言ってよいほど「受けたサービスに対する感謝の気持ち」という解説がなされています。
ホテルのベルボーイやハウスキーピングに対してはこの解釈で間違っていないのですが、現地でレストランの支配人を長く勤めている方に伺うと、
飲食店でお客さんが支払うチップは少し事情が違うようです。
ベルボーイやハウスキーピングに対するチップは1~5ドル程度、タクシーで荷物を下ろしてもらってもそのくらいです。
それに対してレストランでは20%超ですから相当な差がありますよね。
2人で16,000円くらいだなと思っていたら20,000円くらいになっちゃうわけですから。
チップを支払うお店とそうでない店と日本におけるファストカジュアル
ご存知の方も多いかもしれませんが、飲食店でもチップを支払うお店とそうでないお店があります。
これはフルサービスのお店なのかそうでないかの違いです。
いわゆるレストランはもちろんですが、ラーメン店でも席案内、オーダーテイクから提供、会計の全てを店側が実施する場合にはチップが発生します。
チップの無いお店とは
席案内や料理のテーブルへの提供が無いお店ということになります。
その代表はやはりファストフードということになるでしょう。
初めて聞く方もいらっしゃるかもしれませんが、ファストカジュアルと呼ばれるカテゴリーがあります。
これはファストフードのものよりも凝った美味しい料理だけど、レストランほど単価は高くない。といった形式の店をこう呼びます。
ファストカジュアルのお店では、席案内やテーブルへの料理の提供を実施しない仕組みにしているので、チップが必要ないことが前提です。
チップを20%も支払いたくない人は現地にも多く、10年ほど前から人気が高まりどんどん増えてきているスタイルのお店です。
「日本でも次はファストカジュアルが流行る」
と先読みをする方も多くいますが、チップの概念が無い日本ではファストカジュアルの概念も再現が難しく、ファストカジュアルというスタイルが構築出来ていません。
したがって、日本では今のところ「ファストカジュアルだから流行る」という風にはなりづらいのが実情です。
チップは店舗内でどう扱われる?
私たち日本人の感覚からするとチップはお渡しした方への感謝なので、渡された方の収入になると思っています。
ベルボーイやハウスキーピング、タクシーの荷物の上げ下ろしなどはその通りですが、
レストランでのチップはもらった方々から一度全て集められます。
その総額をサービス担当、サポート担当、バーテンダー、シェフ、バックキッチン担当、レセプションなどなど、比率の高低はあるもののマネージャー陣を除いた全ての職種に振り分けられます。(掃除のみの方など、お客様いない時間しか仕事をしない方は除かれるようです)
比率の設定や週単位、月単位など支払いのスパンなどは店舗により様々のようですが、チップを集めて振り分けるという形はほとんど全てのお店で実施されている手法だそうです。
私たち日本人にしてみるとサービスに支払ったつもりが、実はこのように店舗の隅々まで行き渡っているものだったんです。
レストラン側にとってのチップ
飲食店のスタッフはマネージャー陣とシェフ以外は、ほとんどが州の最低賃金で雇用されています。
これにチップが加わることで彼らの収入となるわけです。
そうすると、お客さんはチップにより賃金の一部を負担しているという構図になるわけです。
このことは社会である程度常識のように知られていることなので、チップを支払うことを当然として受け入れているお客さんも多いということになります。
店舗側は賃金を上げることをあまり実施する必要が無くなり、その代わりに彼らの収入をアップや維持させることも目的の一つとして、売上拡大に集中しやすくなるという構図です。
ちなみに人気店ではマネージャー陣よりサービススタッフの方が収入が高いこともよくあるそうで、ただ単に稼ぎたいという方はマネージャーになるのを断る方も多く、マネージャーになる方も限られるそうです。
チップに起因する人材流動
上記の仕組みにより店舗からすると州の最低賃金で雇用をすることができますが、
スタッフ側から見ると、お店の人気が上がり売上が上がれば、自身の収入も増えることになりますので、そこで働くことが大きなメリットになります。
稼げるお店は他から優秀な人材も集まってくるため、競争も厳しくなります。
反対にお店の人気が無くなってくると、優秀な人材は人気店にすぐに移籍してしまいますし、人気店で競争に敗れた人が移籍してくる。
そんな人材流動が起こるということなんです。
経済原理としては当然に見える動きではありますが、あまり義理人情は介在できないんですね。
ファストフードではチップによる収入増が無い訳ですから、私たち日本人が行くと少し怖く感じるような方がいることも経済原理に基づく当然のことなのかもしれません。
海外進出で良い人材が集まる店、集まらない店
日本の外食企業の方で「海外ではなかなか良い人材が集まらない」と漏らす方を見かけます。
一つには日本人のサービスとしての素養の高さとの比較で海外の方はイマイチ。
ということもあるかもしれません。
一方でファストフードやそれに準じるようなスタイルのお店では「稼げない」と判断され優秀な人材の目に留まっていないという可能性もあるということなのです。
今回はアメリカの飲食店におけるチップを題材にしましたが、他の国でも「稼げない」と判断されていて優秀な人材が集まらないという状況になっている可能性があるということです。
その国の賃金の仕組みや経済原理などを紐解くと、良い人材が集まってくると考えられます。