国内の人口は減少していることは周知のことですが、このことを理由にして各業種によるターゲットの変更が行われています。 その中でも「生産人口」と呼ばれる15歳から64歳は50%前後ということです。 生産人口は言葉の通り生産活動の中心の世代ということですが、消費も大きい世代でもあるとも言えます。 少しニュアンスは変わりますが、「現役世代」というのも似た意味合いを持った言葉ということができるでしょう。

企業がターゲットの変更を実施している理由
消費が大きいカテゴリーを狙って商品やサービスを開発するのは企業にとって当然のことだと言えますが、
各企業がターゲットの変更を考える元になっているのは、生産人口の比率の低さよりも生産人口の中の年代別の比率の変動傾向にあります。
10年程前までは長方形に近い形であった生産人口内の人口ピラミッドが現在では逆三角形のような台形になっている状態です。
長方形であれば、自社の商品やサービスが得意な分野が刺さる世代に向けて販売の戦略を立てていくことができたのですが、逆三角形に近くなるとそうも言ってられません。
生産人口よりも上の年代に向けたサービスや商品開発の例
基礎化粧品などは20年ほど前からすでにシニア世代向けに力を入れて商品開発されていることは、メディア等を通して目に触れることがありますので、よくご存じの方も多い分野だと思いますが、他の業種においても同様の取り組みが盛んです。
子供向け学習を主たる事業としている企業が、子供からシニアまで幅広く対象にしていた美しい文字を書く訓練である「書写」の教室を、更に世代をフォーカスする形で65歳以上のシニアに向けた「書写教室」に力を入れています。
文字の美しさはもちろんですが、字体のバリエーションや季節の挨拶の葉書なども身に付けることができるようなコンテンツが用意されているようです。
体験した方からは、「仕事をリタイアした時間を自身の成長に使えることが楽しい」との感想を聞くことができました。
このような方は他にもいらっしゃると想像できますので、全世代向けというサービスから世代を絞って提供されることにより、とある世代に共通のピンポイントのニーズを拾え、目に留まり、需要喚起につながっている様子がうかがえます。
若年世代から現役世代にターゲット変更した例
同様に学生向けに展開していた学習塾が現役世代向けにコンテンツを拡充し、現在では現役世代向けの方が需要が大きくなった企業もあります。
経営が難しくなりつつある学習塾の業種の中で同企業は一番の存在感を発しています。
また、飲料メーカーにおいても一昨年ほどから若年向けの炭酸飲料を終売にして、甘さが少ないまたは甘さが無い大人向けの炭酸飲料の発売が活発になってきています。
どの企業においても売り上げは好調とのこと。
これらもやはり人口ボリュームの少ないゾーンから大きいゾーンへのターゲットの転換と見ることができます。
飲食業では
飲食店のコンセプト
飲食店のコンセプトを見ると、メインターゲットに「20代~30代の男女」というワードが入っているものを今もよく見かけます。
もちろん、立地がそれにふさわしい場所であれば全く問題ありませんし、ふさわしい場所であれば20代~30代で行列ができる店も多数見ることができます。
とはいえ、10年前までは「若者の街」ともてはやされた繁華街でさえ、その中の一部の場所を除くと40代~50代の割合が増えていることが見て取れます。
また、その世代をメインターゲットにした店舗が多い以上、どうしても激しい競争にさらされることも必至です。
新しい食材、新しい料理、新しい提供手法、新しいサービスなどを用いて飲食店を作る際、または新しい大型メニューを導入する際には、目新しいことに抵抗の少ない若い世代をターゲットの真ん中に据えたくなるのは、心理的にはとても理解できます。
ただし、その世代は少なくっているのが事実で、反対にその上の世代は割合的に増えていることは先に述べた通りです。
同様に大きいカテゴリーをターゲットとすべきであることもビジネスの摂理の一つでもあります。
大人世代をターゲットにするには
10年前であれば40代~50代をターゲットにするには、それより若い世代をターゲットにした店舗作りとは立地、内装、メニュー内容、サービススタイル、客単価などなど、かなり違う作り方をすることが必要でした。
10年後の現在は、全体が大衆化で定着、安定している中なので、その範囲で新しいものを求めているのが全世代共通しているニーズだと考えています。
立地、サービススタイル、客単価はほぼ共通のフレームで考えることができます。
内装とメニュー内容を大人向けのプレゼンテーションにすることで、現在の大人世代の店づくりの特徴とすることができます。
ポイント
業態にもよりますので絶対の公式とまでは言えませんが、
若者向けと比較して、照明は明るすぎず、価格は大衆でもすこしだけ落ち着きのある内装で、都市部であるほど小上がり席は極力少なく、清潔であること。
大人向けの傾向といえます。
メニュー内容は新しいプレゼンテーションでも以前からのスタイルでも、本質追求(美味しい追及)がされている(見えている)こと。メニューの全てが本質追求されていなければならないということではなく、代表的な商品数点を含む1/3程度以上が追求されて見えることが大事です。
これらは販売価格内の本質追求でも十分なプレゼンテーションになります。
外食のレジャー化が当たり前の時代を過ごしてきている現役大人世代においては、外食における新しいモノ・コトを受け入れる土壌はすでに培われています。
恐れずボリュームの大きいカテゴリーをターゲットの中心に据える時代が今まさに来ていると考えています。
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筆者紹介酒村 洋行(株式会社アスピット) 都内のフレンチやイタリアンレストランにて、サービススタッフおよびソムリエとして豊富な経験を積む。 その後、大手酒類メーカーに活躍の場を移し、飲食店向けコンサルティング部門にてコンサルタントとして従事。 飲食店の代表取締役を経験した後、2020年3月より株式会社アスピットにて現職。現場と経営、双方の視点から外食産業の課題解決に取り組んでいる。 |