飲食店の原価率が店舗ごとに違う理由|多店舗展開で見落とされる5つのズレ
多店舗展開を進める飲食店において、同じ業態・同じメニュー・同じ仕入先で運営しているにもかかわらず、「なぜか店舗ごとに原価率が大きく違う」という壁に突き当たることがあります。 ある店舗は毎月原価率が安定しているのに、別の店舗は高くブレ続ける。 売上規模はほぼ同等なのに、手元に残る粗利額に大きな開きが出ている。 本部から数値を見ても、なぜそこまで差がつくのか原因がつかめない——。 このような状況は、多店舗展開を推進する企業で頻繁に発生します。 店舗ごとの原価率の差は、単純に「店長の管理が甘い」「現場が無駄遣いをしている」といった意識の問題だけではありません。 実際には、店舗ごとの日々の運用やデータ記録における「小さなズレ」が積み重なり、最終的に原価率の差となって表面化しているケースがほとんどです。 この記事では、飲食店の原価率が店舗ごとにばらつく根本的な理由と、多店舗展開で見落とされがちな5つのズレ、そして本部主導で数値を安定させるための改善アプローチを解説します。
目次
原価率は「仕入金額の安さ」だけで決まるわけではない
まず前提として押さえておきたいのは、原価率は単に「いくら仕入れたか」だけで決まる指標ではないという点です。
飲食店における原価率は、以下の計算式で導き出されます。
- 原価率(%)= 使用原価 ÷ 売上高 × 100
- 使用原価 = 期首在庫金額 + 当期仕入金額 − 期末在庫金額
つまり、原価率という数値には「売上高」「仕入金額」だけでなく、「棚卸による在庫金額の精度」「廃棄・ロスの発生状況」「売れたメニューの構成」など、現場のさまざまな要素が複雑に影響しています。
そのため、原価率が高い店舗に対して安易に「仕入れを減らせ」「発注を抑えろ」と指示を出すのは非常に危険です。
実際には「棚卸のカウント基準が他店と違う」「ロスが正しく記録されていない」「原価率の高いメニューばかり売れている」など、数字の背景にある真の原因を突き止めることが先決です。
多店舗展開で見落とされる「5つのズレ」
現場で蓄積し、原価率の差となって表れる5つのズレを詳しく見ていきます。
ズレ1:棚卸のカウント方法が店舗ごとに違う
店舗別の原価率に差が出る最も代表的な原因が、棚卸のズレです。 同じ在庫量を抱えていても、店舗によって数え方や換算基準が異なれば、算出される「期末在庫金額」が変わります。期末在庫が狂えば、使用原価の計算もすべて狂ってしまいます。
- ケース単位とパック・個数単位が店舗によって混在している
- kg・g・袋などの単位換算を感覚で行っている
- 開封済み食材の残量推計が店長の主観任せになっている
- 仕込み済み食材を在庫計上する店舗としない店舗がある
- 仕込み場・予備冷蔵庫のカウント漏れがある
特に「仕込み済み食材」や「開封済み食材」の扱いは、店舗ごとの差が出やすいポイントです。
【本部が取り組むべきポイント】
棚卸対象品目の精査、入力単位の統一、仕込み済み食材の評価ルールの明確化、棚卸締め時間の統一を行い、全店で同じ基準で棚卸が実行される体制を整えます。
ズレ2:ロス・廃棄の計上ルールが統一されていない
廃棄、調理ミス、提供ミス、オーダーキャンセル、まかない、試食など、売上にならない食材の使用(ロス)をどう記録しているかで、原価率の見え方は一変します。
- 廃棄は記録するが、調理ミスは記録していない
- まかないをロス計上する店舗と、福利厚生費や無記録で処理する店舗がある
- キャンセル分やサービス品の記録が漏れている
- 忙しい時間帯になると記録が後回しになり、そのまま抜け落ちる
ロスが正しく記録されていないと、「何によって原価が上がっているのか」の原因追究が不可能です。ある店舗は細かくロスを付けているため改善点が見え、別の店舗は記録がないため「原因不明の原価高」に陥るというギャップが生じます。
【本部が取り組むべきポイント】
ロスの分類定義(廃棄・調理ミス・まかない等)を統一し、数量だけでなく金額換算で可視化できる仕組みを導入します。
ズレ3:ポーション(提供量)が店舗やスタッフごとにブレている
厨房内のわずかなルールのブレも、積み重なれば大きな原価差となります。 レシピ上で「肉100g・ソース30g」と定めていても、現場で目分量により110g盛り付けていれば、その分の原価は確実に跳ね上がります。
1食あたり20円の超過であっても、月間2,000食販売する店舗ではそれだけで月4万円、年間で48万円の利益ロスとなります。
- 盛り付けを目分量で行っている
- 新人スタッフへのポーション指導が感覚的になっている
- 忙しい時間帯に計量器(スケール)を使わない
- 仕込み時の歩留まり(歩留まり率)の個人差
【本部が取り組むべきポイント】
標準レシピの最新化、盛り付け写真の全店共有、専用レードルやスケールの導入を徹底し、定期的な抜き打ちチェックで品質と原価の両立を図ります。
ズレ4:発注・在庫判断が店長個人の勘に依存している
発注業務を店長個人の経験や勘に頼っていると、店舗ごとに在庫の持ち方に大きな偏りが出ます。
- 欠品(売り切れ)を極度に恐れて常に多めに発注する店舗
- 廃棄リスクを下げようとしてギリギリまで絞る店舗
- 仕入先の最低ロットに引きずられて過剰在庫を抱える店舗
発注が多すぎれば在庫過多から食材の劣化・廃棄ロスにつながり、少なすぎれば欠品による機会損失を招きます。
【本部が取り組むべきポイント】
適正在庫高、安全在庫数、発注点、納品リードタイムを標準化し、曜日や予約状況に応じた発注ガイドラインを本部主導で提示します。
ズレ5:売上構成比(プロダクトミックス)が店舗ごとに異なる
同じメニューブックを使っていても、立地や客層によって売れる商品は店舗ごとに異なります。
たとえば、原価率の高い「看板ステーキ」が多く売れるA店と、高粗利な「ドリンクやサイドメニュー」の注文比率が高いB店では、同じ売上規模であっても全体の原価率に大きな差がつきます。
- ビジネス街(ランチ比率高)と住宅街(ディナー・ファミリー比率高)の立地差
- テイクアウト・デリバリー比率の違い
- 店舗スタッフによるおすすめ施策の違い
この場合、原価率が高いからといって一概に「店舗運営が悪い」とは言えません。
【本部が取り組むべきポイント】
店舗全体の原価率だけでなく、メニュー別の販売数・粗利額・構成比を分解して分析し、店舗の特性に合わせた販促指示やメニュー構成の最適化を行います。
店舗別の原価率を比較する際の注意点
多店舗展開では、店舗別の原価率をランキング形式で並べて評価しがちですが、数値の表面だけを見て良し悪しを判断するのは危険です。
立地、客層、営業時間、ランチ・ディナー比率、客単価、デリバリー比率などの前提条件が異なれば、適正な原価率のラインも変わります。
比較を行う際は、単純な「原価率(%)」の高低だけでなく、これらの前提条件を揃えた上で、最終的に「どれだけの粗利額を稼ぎ出しているか」という視点を持つことが重要です。
原価率の差を改善するための5ステップ
店舗ごとの原価率のバラつきを解消し、組織として改善を進めるには以下の手順が効果的です。
- 数字の定義と計算ルールをそろえる
売上(税込/税抜)、値引きの扱い、ロス・まかないの処理方法、評価単価など、基礎データの定義を全店で統一します。 - 棚卸とロス記録の運用を標準化する
全店が同じ基準・同じ手順でデータ入力を行う環境を整え、数値の精度を高めます。 - 店舗別・メニュー別に数値を分解・分析する
どの店舗の、どのメニューが、どのような理由で原価を押し上げているのかをデータ上で明確にします。 - 現場のオペレーション(発注・仕込み・ポーション)を修正する
数値の異常値をもとに現場を確認し、発注量の見直しや盛り付けの再指導など、具体行動へ落とし込みます。 - 改善成果を検証し、好事例を横展開する
対策後の原価率やロス金額の変化を追跡し、効果の出た取り組みをマニュアル化して他店舗へ展開します。
まとめ
飲食店の原価率が店舗ごとにばらつく理由は、単純な仕入価格の差や店長の意識の違いだけではありません。
- 棚卸のカウント基準のズレ
- ロス・廃棄の記録ルールのズレ
- ポーション(盛り付け量)のズレ
- 発注・在庫判断のズレ
- 売上構成比のズレ
こうした現場の「小さな運用差」が積み重なった結果です。
原価率の改善は、店舗に「原価を下げろ」と圧力をかけることではありません。本部が率先して管理ルールや計算基準を統一し、数値の裏側にある現場課題を正しく把握できる環境をつくることです。
店長任せの感覚的な管理から脱却し、本部主導で標準化された仕組みを整えることで、多店舗展開における利益基盤はより強固なものになります。
よくある質問
Q1. 原価率が高い店舗に対して、最初に取り組むべき改善は何ですか?
A1. 「棚卸精度の確認」と「ポーションの実測チェック」から着手することをお勧めします。まずは在庫金額の計算にズレがないかを確認し、次に現場でレシピ通りの盛り付けが行われているかを実測することで、数値上の狂いなのかオペレーション上のロスなのかを迅速に見極めることができます。
Q2. 店舗ごとの売上構成の違いによる原価率の差は、どのように評価すべきですか?
A2. 原価率(%)だけでなく「粗利額」を併せて評価します。原価率が多少高くても、客単価が高く十分な粗利額を稼いでいる店舗であれば、経営上の貢献度は高いと言えます。店舗の立地や客層の特性を考慮した上で、メニュー別の粗利分析を行うことが重要です。

