飲食店の多店舗展開でメニューを絞るべき理由とは?ABC分析で原価率を改善する鉄則
「お客様に飽きられないように、新しいメニューを増やしたい」 各店舗の店長や料理長から、毎月のようにこういった要望が上がってきてはいないでしょうか。お客様の声を拾い上げる現場の姿勢は素晴らしいものです。しかし、その要望に次々と応え、気づけばグランドメニューのページ数が分厚くなっているとしたら、それは多店舗展開において非常に危険な兆候です。 1〜2店舗の小規模な時代であれば、「幅広いメニューでお客様のあらゆる要望に応える」という柔軟性が強みになったかもしれません。しかし、店舗数が増え、組織規模が拡大するフェーズにおいて、無秩序なメニューの増加は「原価率の悪化」と「現場のオペレーション崩壊」を引き起こす最大の要因となります。 今回は、多店舗化を成功に導く玄人経営者が実践している、メニュー開発における「引き算の鉄則」について解説します。
目次
メニューが増えることで発生する「3つの見えないコスト」
メニュー数が増えることは、単に「選択肢が増える」というポジティブな側面だけではありません。多店舗展開において、メニューの増加は以下のような「見えないコスト」を各店舗に強いることになります。
1. 食材ロスの増加と原価率の悪化
メニューが増えれば、当然ながら仕入れるべき食材の種類(アイテム数)も増えます。たまにしか注文されないマイナーなメニューのために専用の食材を抱えることは、在庫管理を複雑にし、期限切れによる廃棄ロスを確実に増加させます。結果として、全社的な原価率をじわじわと押し上げていくのです。
2. オペレーションの複雑化と提供スピードの低下
厨房内のオペレーションも複雑になります。作り慣れないメニューの注文が入るたびに、スタッフは手順を確認したり、専用の調理器具を探したりと、無駄な動き(タイムロス)が発生します。ピークタイムにこれが重なれば、キッチンの回転率は著しく落ち、メインの看板商品の提供スピードまで遅らせてしまうという本末転倒な事態を招きます。
3. 大きすぎる「新人教育のハードル」
多店舗展開において最も重要なのは、新しいスタッフ(アルバイト)をいかに早く即戦力にするかです。しかし、覚えるべきメニューやレシピが膨大にあると、新人はそれだけで圧倒され、独り立ちするまでに膨大な時間がかかります。「覚えることが多すぎて辛い」という理由での早期離職を引き起こす原因にもなり得ます。
売上の8割を作るのは、上位2割の看板メニュー
飲食店の売上データを詳細に分析すると、見事なまでに「パレートの法則(80:20の法則)」が当てはまることがわかります。つまり、店舗全体の売上・利益の8割は、上位2割の特定のエースメニュー(看板商品)によって生み出されているのです。
それ以外の8割のメニューは、実は「あってもなくても日々の売上に大きな影響を与えない」か、あるいは「手間ばかりかかって利益を圧迫している」死に筋メニューである可能性が高いのです。
経営陣や本部がやるべきことは、現場の「あれもこれもやりたい」という足し算の要望を鵜呑みにすることではありません。むしろ、データに基づいて「これは本当に必要なメニューか?」を問い直し、勇気を持って「削る(引き算する)」ことなのです。
感情を排し、データで「引き算」を断行するABC分析
この「メニューの引き算」を、現場の店長とのハレーションを起こさずに進めるためには、社長の感覚や現場の『なんとなく』ではなく、POSレジ等から得られる客観的な『販売データ』を根拠にする必要があります。」
そこで必須となるのが「ABC分析」です。
全店舗のメニューを「売上高」や「粗利額」でランク分けし、Aランク(主力)、Bランク(中堅)、Cランク(死に筋)を明確に可視化します。
- Aランク: 会社の利益の源泉。品質をさらに磨き上げ、提供スピードを極める。
- Bランク: トレンドや季節感を出すためのメニューとして維持・改善する。
- Cランク: 思い切ってメニューから外すか、他のメニューと食材を共通化できないか見直す。
「このCランクのメニューは、月に○食しか出ておらず、廃棄ロスの方が大きいから廃止する」。このように、本部から具体的かつ論理的な数値データを提示できれば、現場も納得してメニューの絞り込みに応じることができます。
メニューの絞り込みが、現場の笑顔と利益を生む
メニューを絞り込むことは、決して手抜きでも、お客様へのサービス低下でもありません。
少ないメニューに全集中することで、看板商品のクオリティはさらに高まり、提供スピードも上がり、結果として顧客満足度は向上します。同時に、食材ロスが減り、スタッフの教育負担も軽くなるため、利益率と定着率の改善という素晴らしい副産物をもたらします。
多店舗展開の成功の鍵は、「何をやるか」と同じくらい「何をやらないか(削るか)」を決断することにあります。
そして、その決断を下すためには、全店舗の日々の出数や原価率、粗利額をリアルタイムで正確に把握できる「システム基盤」が不可欠です。どんぶり勘定でのメニュー開発から卒業し、データに基づいた「引き算の経営」へシフトすることが、多店舗化の壁を突破する強力な武器となるはずです。


