飲食店にとって切っても切り離せない「食中毒」リスク。 おいしい料理を提供していても、食中毒が発生すればお客様の信頼は失われてしまいます。 このコラムが、飲食店の皆様の衛生管理意識向上に役立ち、安全で安心な食事提供の一助となれば幸いです。

食中毒を起こすおもな細菌・ウイルス・寄生虫
食中毒は、様々な細菌、ウイルス、寄生虫が原因で起こります。
それぞれの特徴と感染経路を理解することが重要です。主なものを以下にまとめました。
サルモネラ属菌
特徴:動物の腸管内に存在し、特に生の鶏肉や卵が主な感染源となる。
感染経路:食肉調理品(特に鶏肉)、生卵、またはその加工品など
症状:感染から8~48時間(菌種により異なる)後に、腹痛、下痢、おう吐、発熱など
予防方法:鶏肉や卵はしっかりと加熱する(中心温度75℃以上)、生の食材と調理済みの食材を別々のまな板や包丁を使って分ける、手洗いを徹底する。
カンピロバクター
特徴:鶏肉や乳製品から感染することが多く、特に生の鶏肉が主な感染源となる。
感染経路:鶏肉(加熱不足の焼き鳥、鳥刺し、レバ刺し等)、井戸水、生野菜など
症状:感染から約1~7日後に、腹痛、激しい下痢、発熱、おう吐、筋肉痛など
予防方法:鶏肉は充分に加熱する(中心温度75℃以上)。生肉と他の食品を交差汚染しないように調理器具を分ける。生野菜は流水できれいに洗う。
黄色ブドウ球菌
特徴:人の皮膚や粘膜に存在し、食品に触れることで繁殖することがある。耐熱性の毒素(エンテロトキシン)を生成し、加熱しても毒素は残ることがある。
感染経路:素手で不適切に取り扱った食品(手指(化膿創など)から汚染)など
症状:感染から約3時間後に、吐き気、おう吐、腹痛、下痢など
予防方法:手指をよく洗い、消毒する。調理中に鼻や口を触らないようにする。素手で直接食品に触れないよう手袋を着用する。調理する食品は適切に保存し、なるべく早く消費する。
腸管出血性大腸菌(O157等)
特徴:O157などの腸管出血性大腸菌は牛の腸内に存在し、感染すると激しい下痢や腎臓障害を引き起こすことがある。
感染経路:加熱不足の牛肉やそれらに二次汚染された食品、井戸水、サラダなど
症状:感染から約3~5日後に、下痢(血性を含む)、腹痛、発熱、おう吐など
予防方法:牛肉は完全に火を通す(特にひき肉は中心まで加熱)、生野菜や果物の洗浄、調理器具や手を十分に洗浄・消毒する。
ウエルシュ菌
特徴:土壌や動物の腸管内に広く存在する細菌であり、嫌気性(酸素を嫌う)菌。高温や低温に強く、寸胴鍋で調理した食品(カレーやシチューなど)が冷える間に増殖可能温度域(18℃~50℃)となり(発育最適温度は45℃)、10分で倍に増えるスピードで増殖することがある(サルモネラや大腸菌などの菌は発育最適温度の35℃~37℃でも倍になるまでの分裂時間は20分)。ウエルシュ菌は短時間で増殖するので、常温での長時間放置は危険である。
感染経路:大量調理した食品、煮込み(カレー、シチュー等)の大鍋料理など
症状:感染から約6~24時間後に、激しい腹痛と下痢を引き起こす。発熱や嘔吐を伴うことは少なく、症状は通常24時間以内に治まることが多いが、高齢者や免疫力が低下している人にとっては危険。
予防方法:調理後は迅速に冷却し、冷蔵保管する(例:寸胴鍋はシンクで流水にあて、かき混ぜながら冷却)。小分けにして保管。再加熱する際には、空気に触れるようかき混ぜながら75℃以上で1分間以上加熱する。
ボツリヌス菌
特徴:土壌や水中など自然環境に存在し、嫌気性(酸素を嫌う)菌である。非常に強力な神経毒を産生する。
感染経路:真空パック食品、缶詰食品、発酵食品など
症状:感染から12~36時間後に、視力障害、口の乾き、嚥下困難、筋力低下といった神経症状が現れる。重症の場合、呼吸筋麻痺を引き起こし命に関わることがある。
予防方法:真空パック食品や家庭で作られた保存食品(缶詰、自家製発酵食品など)は特にリスクがある。真空パックや缶詰食品は、75℃以上で十分に加熱してから保存する。自家製保存食品は作る際に十分な衛生管理を行い、保存期間にも注意を払う。
セレウス菌
特徴:土壌や水、植物に広く分布する細菌。耐熱性の芽胞を形成することができ、調理後も生き残ることがある。
感染経路:米飯類、パスタ、調理済み食品、香辛料など
症状:毒素型と感染型の2種類があり、毒素型は摂取後1~6時間で嘔吐を引き起こす。感染型は摂取後6~15時間で下痢を引き起こす。
予防方法:チャーハンやパスタサラダなど、一度加熱した後に常温で放置された食品で増殖しやすいので、調理後の食品は速やかに冷却して冷蔵保管する。再加熱時には、十分に加熱する。
リステリア・モノサイトゲネス
特徴:冷蔵保存でも菌が増殖できるため、長期保存のチーズや冷菜、加工肉製品などで発生事例が見られる。免疫が低下している人や妊婦は特に危険。
感染経路:未加熱の乳製品(ナチュラルチーズ)、食肉加工品(生ハム)など
症状:感染から約3週間後に、発熱、頭痛、悪寒、おう吐など
予防方法:生の乳製品や加工肉は新鮮な状態で消費する。冷蔵庫の温度管理を徹底し、長期間保存しない。特に妊婦や免疫力の低い人は高リスク食品を避ける。
腸炎ビブリオ
特徴:海水に生息する細菌であり、特に生の魚介類に付着していることが多い。特に夏場に発生しやすい。
感染経路:生の魚介類(特に貝類)、生の海産物、汚染された調理器具など
症状:感染から12~24時間後に、激しい腹痛、下痢、嘔吐、発熱の症状など
予防方法:生魚や貝類などの扱いが不適切な場合に増殖しやすいので、魚介類は新鮮なものを使用し低温(0~4℃)で保存する。生食する魚介類は流水でよく洗う。生魚を扱った調理器具は他の食品と分ける。
ヒスタミン
特徴:魚介類に含まれるヒスチジンというアミノ酸が、細菌の働きによってヒスタミンに変換されることで発生する化学性食中毒。化学物質による食中毒として分類されるが、間接的には細菌の活動によってヒスタミンが生成されるので、予防のためには細菌の増殖を抑えることが重要。
感染経路:主にマグロ、カツオ、サバなどの赤身魚
症状:ヒスタミンが大量に生成された魚を食べると、食直後から数時間以内にアレルギー様症状(顔面紅潮、じんましん、頭痛)、消化器症状(吐き気、嘔吐、下痢)が現れる。一般的な食中毒と異なり、同じ魚を食べても発症する人としない人がいる。症状は食物アレルギーに似ているが、ヒスタミン食中毒は食物アレルギーではない。【食物アレルギーについてはこちら】
予防方法:一度生成されたヒスタミンは、調理時の加熱等では分解されない。見た目やにおいでは判別できない。そのため、ヒスタミン産生菌の増殖と酵素作用を抑えてヒスタミンを生成させないようにすることが大切。原材料(魚の場合には死んだ瞬間)から最終製品を食べるまでの一貫した温度管理(コールドチェーン)が重要。鮮度の良い魚を選び、速やかに消費すること。室温での放置を避け、保存するときは冷凍し、長時間の冷蔵は行わないこと。解凍等を行うときは冷蔵庫内で行い、使う分だけ解凍し、解凍後は速やかに調理する。また、喫食時に舌や唇にピリピリとした違和感があれば飲み込まずに吐き出すことも最終的な対処方法。
ノロウイルス
特徴:ノロウイルスは非常に感染力が強く、少量のウイルスでも発症し患者数も多くなる傾向がある。感染者の糞便や嘔吐物を介して、または汚染された食品や水を介して広がる。
感染経路:汚染された食品(特に生牡蠣などの二枚貝)、汚染された水、直接接触(感染者との接触やその手を介して)
症状:感染から約1~2日後に、吐き気、おう吐、激しい下痢、腹痛、頭痛など
予防方法:生の二枚貝(特に牡蠣)を十分に加熱する(中心温度85〜90℃で90秒以上)。特にトイレ使用後や嘔吐物・糞便の処理後は手洗いを徹底する。キッチンや食品に触れる場所を定期的に消毒(アルコールは効かないので、市販の家庭用漂白剤を次亜塩素酸ナトリウムの濃度が0.05%になるように薄めて拭いた後、水拭き)する。症状がある従業員は感染のおそれが消えるまで調理業務を避ける。
アニサキス
特徴:アニサキスは寄生虫の一種で、魚やイカなどの海産魚介類に寄生し、幼虫の体長は約20~30mmの白く細長い見た目をしている。この幼虫が人間に感染すると、アニサキス症を引き起こす。
感染経路:アニサキス幼虫が寄生した魚介類(サケ、サバ、イワシ、タラ、イカなど)の生食
症状: 急性胃アニサキス症は、摂取後数時間から数十時間以内に、激しい胃痛、吐き気、嘔吐がある。場合によっては虫体が原因となり、胃壁や腸壁に穴が開くことがある。
急性腸アニサキス症は、摂取から数時間後~数日後に、下腹部の激しい痛みが発生。鼻騒動症(偽虫症)として、胃症状に似た症状を引き起こすことがあり、急性虫垂炎の症状と混同されることもある。
予防方法:
【冷凍処理】アニサキス幼虫は冷凍に弱い。魚介類を-20℃以下で24時間以上冷凍することで幼虫を殺すことが可能。冷凍処理が行われた海産物を使用するか、自店舗や自宅で冷凍処理を行う。
【加熱処理】アニサキス幼虫は加熱にも弱い。魚介類を60℃以上で1分間以上加熱する。生の魚介類を調理した後は、調理器具やまな板もしっかりと加熱処理する。
【目視チェック】刺身や寿司の調理時には、可能な限り目視でアニサキス幼虫を確認し、取り除く。ただし、完全には見逃すリスクがあるため、冷凍や加熱による処理も併用する。
【信頼できる供給元からの購入】魚介類を信頼できる供給元から購入し、仕入先の履歴や冷凍処理の実施状況を確認する。
食中毒予防のポイント
上記で記載した食中毒を防ぐためには、基本的な衛生管理を徹底することが重要です。それでは、具体的な対策を見ていきましょう!
基本3原則
御存知の方も多いと思いますが、食中毒予防の基本3原則とは、「つけない」「増やさない」「やっつける」です。
1.つけない:手洗いと消毒を徹底し、調理器具の使い分け、適切な保管で食材への菌の付着を防ぎましょう。
2.増やさない:食材の適切な温度管理、特に冷蔵保管の徹底により菌の増殖を抑えましょう。
3.やっつける:加熱調理を適切に行い、菌を死滅させましょう。
手洗いと消毒
基本3原則の「つけない」にあたります。手洗いは、最も基本的で効果的な食中毒対策です。特にトイレの後、食材を触る前、生肉や魚を触った後、ごみ処理の後のタイミングで手を洗うことを徹底しましょう。使い捨て手袋の使用も効果的ですが、何度も使いまわすことによって食中毒の原因となった事例もあるので、使い方のルールを周知徹底しましょう。
包丁やまな板などの調理器具も清潔に保つ必要があります。異なる食材を同じ調理器具で扱うと、交差汚染のリスクがあるので、例えば、生肉と野菜なら野菜を先に切って、生肉の菌を野菜に付着させない工夫が必要です。
用途別のまな板や包丁を用意(例えば、赤は肉用、青は魚用、緑は野菜用)し、使用後はすぐに洗浄・消毒する管理をしましょう。
管理の徹底(温度含む)
食品を適切に保存することで、食中毒のリスクを低減できます。温度管理は特に重要であり、基本3原則の「ふやさない」にあたります。
賞味期限や消費期限を確認し、期限内に消費するのはもちろんのこと、期限の早いものが手前になるような導線管理も大切ですね。
「冷蔵庫に入れておけば低温だし安心」とは言い切れません。リステリアなど低温で発育できる菌もあるので、冷蔵庫の過信は禁物です。また、頻繁な開閉で温度が上がってしまう、食材を詰め込みすぎて冷気が循環しづらい、粗熱をとらずに温かい物を冷蔵庫に入れる、などで容易に冷蔵庫内の温度は上がってしまいます。
冷蔵庫の中では、菌が付着している可能性の高い生の肉や魚を下段に保存し、野菜や加工済み食品は上段に置くなどの工夫が必要です。肉や魚からはドリップと呼ばれる汁が流れ出すことがあり、ドリップを通じて他の食材に細菌などを付着させる可能性があるためです。このように、もともと菌が付着しているものや未加熱で喫食するものを適切に保管することは基本3原則の「つけない」にあたります。
加熱
基本3原則の「やっつける」にあたります。食品を十分に加熱することで、熱に弱い有害な細菌やウイルスを死滅させることができます。
加熱のポイント:中心温度が75℃以上になるようにする。特に鶏肉や豚肉、卵を使った料理は完全に火を通す。加熱後はすぐに提供するか、適切な温度で保温する。
ただし、熱に強いもの(ヒスタミンや芽胞、菌が産生した毒素など)もありますので、「加熱したから大丈夫!」という考えが危険な場合もあります。
まとめ
飲食店の食中毒対策は、日々の衛生管理が重要です。手洗い、調理器具の管理、食材の保存、加熱調理、そしてスタッフ教育もしっかり行いましょう。
安心安全な飲食環境を提供するために
店長だけ、誰か一人だけが頑張るのではなく、スタッフ全員が食中毒対策を理解し実践することが重要です。
お客様の健康と信頼を守るために、基本的なことを徹底していきましょう!