2025年10月、最低賃金が過去最大の63円引き上げとなる見込みです。飲食店にとって人件費の増加は避けられませんが、これは経営の立て直しに踏み出す好機でもあります。感覚ではなく数字で現状をつかみ、価格・シフト・DX(デジタル化)・人材・資金を一体で動かせば、コスト増を吸収しながら売上と生産性を同時に伸ばせます。※ 最低賃金は都道府県ごとに異なり発効日も地域で異なりますので、最新の地域別最低賃金と発効日をご確認ください。

1.全体像を把握し、今後の計画を立てる
・現状の数字を出す → ピークに人を寄せる → 価格を役割別に整える → DXで"分"を"円"に変える →
多能工化で詰まり解消 → 補助金+融資で安全に資金手当 → 月次で効果検証し配分最適化
・数字の見える化 → シフト最適化 → 価格再設計 → DX導入 → 人材設計 → 資金計画 → 月次PDCA
(コスト抑制) (増収) (効率化) (離職防止) (資金枯渇回避) (継続改善)
2.影響額を30秒で見える化する
・(計算式)スタッフ数 × 月平均労働時間 × 63円 × 12か月 = 年間負担増
例1)1店舗(ホール3・キッチン2、各120h/月) → 5×120×63×12=453,600円(約45.4万円)/年
例2)10店舗チェーン(各店パート10名、150h/月) → 10名×150×63×12=1,134,000円/店・年 → 10店舗で1,134万円/年
・あなたの店(記入) : 人数( )× 時間( )× 63 × 12 = ( )円/年
※ 規模感が握れれば、必要な削減幅・増収目標・投資上限が定まります。
3.実態の「見える化」
POSや日報から時間帯別の売上を取り出し、同じ粒度で人件費(時給×人数×時間)を並べます。
グラフ化すると本当に稼げているのは1日2~3時間のピークタイムに集中することが多く、そこに熟練者を集中配置し、暇な時間帯は必要最小人数にする方針が明確になります。
並行して、スタッフごとの月間労働時間と時給を確認し、どの時間・工程が赤字かを言葉で説明できる状態にしておきましょう。
4.運営最適化、山(ピーク時間帯)に人を寄せる
ピークに合わせてシフトを再度調整します。開店直後や閉店前が不採算なら、開閉店時刻を±1時間動かすだけで月数万円の固定削減が見込めます。注文→提供→会計の所要時間をストップウォッチで測り、下準備・動線整理で合計3~5分短縮できれば、同じ席数でも回転が上がりピークの取りこぼしが減少します。さらに廃棄を毎日メモするだけで翌週の発注が締まり、原価率が2~3ポイント改善するケースは珍しくありません。
・今週の変更点:開店( 人→ 人)/ピーク人員( 人→ 人)/下準備( 人→ 人)
5.価格の見直し、「一律」ではなく「役割別」
値上げは全品一律ではなく、商品の役割に合わせて設計します。看板商品は小幅にとどめて来店動機を守り、
準主力メニューでしっかり利益確保。動きの鈍い商品は大幅調整し、それでも回らなければメニュー外しも検討します。
330円/680円/980円など受け入れられやすい価格段を活用し、店頭POPや会話では「品質維持のための調整」と率直に伝えましょう。
6.DXは「分→円」に換算して選ぶ(回収期間=導入費 ÷ 年間削減人件費)
導入可否は「何分短縮して誰の稼働が何時間空くか」を紙に書き、分を円に直して判断します。
例えば、セルフ/QR注文(導入80万円)で、時給1,100円×160h×12=211万円/年の削減見込み → 回収80÷211≒5か月。会計の滞留には自動精算機、品質のばらつきには自動フライヤーや茹で機、在庫アプリでロス10~15%減、勤怠/会計クラウドで事務90%削減と粗利の日次可視化が可能になります。
・導入前メモ:『どの工程を何分短縮 → 誰の稼働が月何時間空く → 年間いくら?』
7.人への投資(従業員の多能工化でピークの詰まりを消す)
役割の越境を日常化します。ホールは簡単盛付、キッチンはピーク時の配膳支援。
これだけでピークの詰まりが解消します。評価は売上・回転・ロスの3指標で見える化し、小さくても確実に報います。
賃上げは「体質強化への投資」と捉え、店長会や朝礼で言語化し続けることが離職防止に直結します。
8.資金計画(運転(人件費増)×6か月+設備投資を"先に積む")
手元資金を枯らさないため、毎月の人件費増の6か月分を運転資金の目安に置き、DXや厨房機器の設備投資を上乗せします。例えば、月50万円の増加 → 運転資金300万円。セルフ80万円+自動精算150万円を加え、総額530万円が目安。補助金(IT導入・ものづくり・小規模持続化・自治体枠)を活用し、投資→削減→回収の筋道が分かる事業計画と見積書・根拠を先に用意。融資は公庫・メインバンクへ3か月前に相談し、季節変動に合わせた返済設計を立てる。
9.12か月ロードマップ(チェック式)
・0-3か月(基盤)□ 時間帯別「売上×人件費」表作成 □ シフト最適化 □ 価格再設計 □ 補助金・融資準備
・4-6か月(導入):□ QR/セルフ導入 □ 自動精算機 or 会計導線見直し □ 多能工トレーニング開始
・7-9か月(深掘り):□ 厨房自動化・在庫アプリ運用 □ 廃棄/原価の日次ダッシュボード
・10-12か月(選択と集中):□ 粗利ダッシュボードで選択と集中 □ 次年度の投資配分・採用計画を決定
10.そのまま使える「現場テンプレ」
・影響額: ( 人)×( h/月)×63×12=( )円/年
・赤字時間帯: ( 時~ 時)/対策:(開店・閉店 時に変更)
・DX候補: (課題)→(ツール)→短縮( 分)→削減( 円/年)→回収( か月)
・価格改定: 看板( 円→ 円)/準主力( 円→ 円)/外す商品( )
・人材: 交差支援(ホール→ 、キッチン→ )/評価指標(売上・回転・ロス)
11.今日の一手が一年を変える
最低賃金の引き上げは避けられません。
しかし、数字→運営→価格→DX→人→資金の順で手を打てば、「ただ苦しい一年」にはなりません。
まずは時間帯別の売上と人件費を同じ表に並べ、ピークに人を寄せる新シフトを一本つくってください。
そこから価格・DX・人材・資金へ一直線につながり、2026年には"強い収益体質"が形になります。
12.実務ミニガイド配布
自店の数字を入れて自動で算出できる便利なシートを無料配布中!(フォーム登録もなしです)
数字で現状の把握や経営の立て直しに活用いただけますと幸いです。
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最低賃金全国平均63円増額"見込み"をチャンスに変える(実務ミニガイド)_記入シート.xlsx