多店舗展開で必要な「現場任せにしない」発注・在庫管理のつくり
飲食店を多店舗展開していくうえで、発注・在庫管理は利益率に直結する非常に重要な業務です。 1〜2店舗のうちは、店長やベテランスタッフの感覚に頼って発注していても、大きな問題にならないことがあります。「この曜日はよく出る」「雨の日は客数が落ちる」「週末前は多めに仕入れる」といった現場ならではの感性は、店舗運営において確かに大切です。 しかし、店舗数が増えていくと、発注や在庫管理を現場任せにしたままでは限界を迎えます。 店舗ごとに発注量の考え方や基準がバラバラであったり、特定の店舗で欠品や過剰在庫が頻発したりすることが増えていきます。また、ロスや廃棄が増えているのに原因が分からなかったり、本部が各店舗のリアルタイムな在庫状況を把握できなかったりする課題も生じます。さらに、同じ商品を扱っているにもかかわらず店舗ごとに原価率の差が大きく開いてしまうといった悩みも、多店舗展開を進める飲食店でよく見られるケースです。 この記事では、現場の柔軟性を活かしつつ、本部主導で「現場任せにしない」発注・在庫管理の体制を構築するポイントを解説します。
目次
発注・在庫管理を現場任せにすると起こること
発注や在庫の管理は、日々の営業に密着した業務であるため、ある程度の現場判断が必要です。しかし、すべてを店長やスタッフの個人的な経験に任せてしまうと、店舗ごとの管理精度に大きな差が出てしまいます。
現場で起こりがちな課題には、以下のようなものがあります。
- 店長の性格や経験によって発注量が大きく変動する
- 欠品を恐れるあまり、常に多めに発注してしまう
- 在庫が放置され、食材の劣化や賞味期限切れによる廃棄が増える
- 棚卸の数え方や単位が店舗ごとに微妙に異なる
- ロスや廃棄が発生しても記録に残らない
- 発注ミスが発生しても、本部が事前に気づけない
- 店長が交替すると、途端に発注精度が落ちる
特に深刻なのは、管理の精度が店長個人のスキルに依存してしまうことです。優秀な店長がいる店舗はうまく回る一方で、経験の浅い店長の店舗では欠品や過剰在庫、原価の悪化が頻発します。
多店舗展開で必要なのは、ベテラン店長しかできない管理ではなく、「誰が担当しても一定の精度で回る仕組み」です。
本部が発注・在庫管理に関わるべき明確な理由
発注・在庫管理は現場の業務であると同時に、本部的にも強く関与すべき領域です。なぜなら、発注と在庫の精度は、原価率、ロス率、売上機会の損失、そして企業のキャッシュフローに直結するからです。
たとえば、欠品が発生すれば、売れるはずだったメニューを提供できず機会損失につながります。一方で過剰在庫が続けば、食材の廃棄が増えて原価率が悪化するだけでなく、棚卸資産として資金が固定化され、会社の資金繰りを圧迫します。
本部が見るべきなのは、単に「正しく注文が出されているか」だけではありません。
- 売上予測に対して適切な量を発注できているか
- 不要な在庫が店舗に積み上がっていないか
- 欠品による売上機会のロスが起きていないか
- 廃棄・ロスが増加傾向にないか
- 同規模の店舗間で原価率や在庫金額に不自然な開きがないか
こうした視点で全店舗を横断的にモニタリングできる状態をつくることが、本部に求められる役割です。
「現場任せにしない」とは、現場の判断をゼロにすることではない
本部主導での管理というと、「現場の裁量をすべて奪うのではないか」と懸念されることがあります。しかし、現場の判断を完全になくす必要はありません。
飲食店には、日々の天候、近隣イベント、予約の入るタイミング、客層の変化など、現場にしか分からない要素が必ず存在します。これらを無視して本部が一律の数量を押し付けると、かえって現場に合わない運用になり、欠品や廃棄を増やす原因になります。
大切なのは現場の判断をなくすことではなく、「判断の基準を全社でそろえること」です。
- 基本ルールと基準値は本部が設定する
- 店舗は売上予測や現場の状況に応じて微調整を行う
- 調整した理由(イベント開催、天候予測など)を記録に残す
- 本部は結果の数字と理由を確認し、次の改善につなげる
このサイクルを作ることで、現場の柔軟性を活かしながら、店舗ごとの精度のばらつきを抑えることができます。
発注・在庫管理を整える5つのステップ
多店舗管理の仕組みをつくる際は、以下の5つのステップ順に進めるとスムーズです。
ステップ1:商品・食材マスタを統一する
最初に着手すべきは、食材名や管理単位の標準化です。店舗ごとに表記や単位が異なると、本部でデータを集計・比較できません。
- 表記の統一: 「鶏もも」「鶏もも肉」「チキン」などをひとつの名称に統一
- 単位の統一: 「kg」「g」「ケース」「パック」「個」などの基準を整理
食材名、発注単位、在庫カウント単位、仕入先、標準価格などをマスタ化し、全店舗で同じ基準で扱える状態を作ります。
ステップ2:適正在庫の目安を決める
商品ごとに、欠品を起こさず過剰にもならない「適正在庫(安全在庫)」の基準を設定します。
- 過去の販売実績と曜日ごとの売上傾向
- 発注から納品までのリードタイムと発注頻度
- 食材の賞味・消費期限と廃棄リスク
- 最低発注単位(ケース単位など)
毎日納品される食材と、週2回しか納品されない食材では必要な在庫量が異なります。また、全店一律の数値ではなく、店舗の売上規模に応じた安全在庫の基準を設定することがポイントです。
ステップ3:発注ルールを統一する
発注業務の手順や条件を明確にし、ミスや個人のクセによるばらつきを防ぎます。
- 発注日・締め時間・発注担当者と承認者
- 発注単位・最低発注数量
- 緊急発注や発注変更時のルール
- 発注理由(修正理由)の入力ルール
「誰が・いつ・何を・どの基準で発注するか」をクリアにすることで、発注漏れや重複発注などの初歩的なトラブルを防止できます。
ステップ4:棚卸・ロス・廃棄の記録基準をそろえる
原価率のブレを抑えるには、仕入れた食材がどのように使われ、どれだけ残っているかを追跡する必要があります。
- 棚卸の実施頻度とカウント方法
- ロスと廃棄の定義の明確化
- 廃棄理由の分類(仕込みすぎ、期限切れ、調理ミス、破損、クレーム対応など)
単に「廃棄○kg」と記録するのではなく、「仕込み過多」なのか「賞味期限切れ」なのかといった原因を分けて記録することで、根本的な改善策が打てるようになります。
ステップ5:本部が追うべき「店舗別KPI」を決める
本部が定期的にチェックするモニタリング指標(KPI)を設定します。
- 店舗別の発注金額・仕入金額・在庫金額
- 理論原価と実績原価の乖離(棚卸差異)
- ロス・廃棄金額および欠品回数
- 在庫回転率
売上規模が同等の店舗にもかかわらず、特定店舗だけ在庫金額やロス額が膨らんでいる場合、仕込み量や発注タイミングに問題があることが一目で分かります。本部はデータをもとに具体的な指導・サポートを行えるようになります。
「売上予測」と連動させると発注精度はさらに上がる
発注精度を一段引き上げるには、直近の在庫数だけで判断するのではなく、今後の売上予測(需要予測)と連動させることが効果的です。
発注量を決める際は、以下の要素を考慮に入れます。
- 曜日別の売上傾向と前年・前週の同曜日実績
- 天気予報と予想気温
- 予約状況(団体予約やコース予約)
- 近隣のイベントや周辺環境の変化
- 実施中のフェアや販売キャンペーン
これらを考慮して発注量を調整できれば、不要な在庫を抱え込まず、かつ週末のピーク時にも欠品を出さない運用が可能になります。
システム化によって本部管理がしやすくなる領域
紙やExcelでも基本的な管理は可能ですが、店舗数が増えるにつれて集計や転記、確認の作業量は一気に増えていきます。
業務システムを導入・活用することで、以下のような業務が効率化されます。
- 全店舗の発注状況や在庫状況を本部でリアルタイムに確認できる
- 食材マスタの一元管理により、表記揺れや誤発注を防げる
- 棚卸データやロス記録が自動集計され、原価率の異常値にすぐ気づける
- 過去の売上実績や予測データと連動した発注提案機能が使える
ただし、発注ルールや棚卸の運用基準が決まっていない状態でのシステム化は失敗のもとです。まずは「自社の管理ルール」を固めたうえで、それを効率良く運用するためのツールとしてシステムを活用するという順序を意識しましょう。
まとめ
多店舗展開における発注・在庫管理で最も避けるべきは、店舗や店長ごとの「感覚」に依存しきってしまうことです。
現場の判断力を活かすためにも、まずは本部主導で以下のような土台を整えましょう。
- 商品・食材マスタを統一する
- 売上規模に応じた適正在庫の基準を決める
- 発注業務のルールと締め時間を統一する
- ロスや廃棄の原因まで記録する仕組みを作る
- 本部で確認する比較指標(KPI)を明確にする
管理基準がそろっていれば、欠品や過剰在庫が減り、ロス削減と原価率の安定化に大きく貢献します。店舗数が増えても確実に利益を残せる組織を目指し、現場任せの運用から「本部と店舗が同じ基準で動ける仕組み」へとアップデートしていきましょう。
よくある質問
Q1. 店長から「自分の経験で発注したほうが欠品しない」とルールの統一に反対されたらどう説明すべきですか?
A1. 店長個人のノウハウを否定するのではなく、「その優秀なノウハウを仕組み化して全店に広げたい」という文脈で対話することが大切です。また、過去のデータ(曜日別の売上傾向や実際のロス額)を示しながら、感覚だけに頼る発注がどの程度の廃棄リスクを生んでいるかを数値で共有し、納得感を醸成しましょう。
Q2. 適正在庫の数値は、一度決めたら変更しなくてもよいですか?
A2. 定期的な見直しが必要です。季節のメニュー変更、トレンドによる客層の変化、近隣の競合状況、仕入先の配送スケジュールの変更などによって最適な在庫量は変わります。最低でも四半期(3ヶ月)ごと、またはメニュー改定のタイミングで適正在庫の基準値を見直す運用をおすすめします。

